31 / 207
【4】SIDE蓮見(4)-6
「おい。待てよ、おまえら! 俺の話を聞けって!」
「えー」
「おまえら、ほんと何もわかってない! 女なんかとヤるより、綺麗な男のほうがよっぽどいいんだからな!」
「新井さーん、モテないからって、いい加減にしてくださいよ」
立ち上がった営業マンの一人が聞いた。
「で、新井さんはどうするんです? 行くんですか、行かないんですか?」
新井は黙り、どうしようかと迷う気配を見せた。
「行くなら、新井さんの奢りかな」
誰かが言った。
全員が「やったー」と万歳をするように手を上げる。
「なんで俺が奢るんだよ!」
「だって、先輩じゃないですかー」
「そうですよぉ。いつも、俺は先輩だって威張ってるんですから、こういう時こそ先輩らしいとこを見せてくださいよう」
男たちがへらへらと笑う。
新井は真っ赤になって、彼らを睨み上げた。
「誰が行くか……」
新井を残し、男たちがぞろぞろと宴会場を出てゆく。廊下を歩く彼らの声が、襖の向こう側を通り過ぎていった。
「なんで、声かけたんだよ。あの人が奢ってくれるわけないだろ」
「だからだよ。下手についてこられて、酔ったふりでもされて、こっちが金を払わされたんじゃたまんないからな」
新井に視線を戻すと、三人ほど残った男たちにまだ何か話している。
人の姿がまばらになり、周囲はずいぶん静かになっていた。
「うちの展示場の近くにさ、本家新宿を真似した『二丁目』って地区があるの、知ってるだろ?」
残った三人はまだ新人らしく、新井の話に真剣に頷いている。
「聞いたことがあります。新宿ほどじゃないけど、その手の店がけっこう集まってる場所があるって……」
「まあ、本物と比べたら、ちっぽけなもんだけどな……」
何度か足を運んだことがあるらしく、店の名をいくつか挙げては、その特徴を長々と話す。聞くともなしに聞いていたが、結局は女性の代わりに男が接待するというだけで、話の中身はあまりないようだった。
新人たちも新井の話に飽きてきて、互いに別のことを話し始める。
彼らの気を引くためか、新井は妙にもったいぶった口調で、「実は一つ、とっておきの秘密の店があるんだけどよ」と言った。
「その店のことは、絶対に人に教えちゃいけない決まりなんだけど……」
ともだちにシェアしよう!