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【4】SIDE蓮見(4)-7
三人の目が新井に集まる。新井はさらにもったいぶって「あれは、あんな場所にあるのが不思議なほどの、最上級の店だぜ」と言った。
「客は上等な紳士ばかりでさ、店にいる男娼たちも最高級の商品ばかりだったな。滅多に開いてなくて、店に入れるのは選ばれた人間だけなんだぜ」
「そんな店に、どうやって行ったんですか」
「まあ、ちょっとした知り合いがいてさ……」
新井は言葉を濁す。それでも、ようやく三人の興味が自分に向いたのを確かめると、三人を近くに集めて「いいか。よく聞けよ」と声を潜めて話し始めた。
どうでもいいと思いながら聞いていた蓮見は、三井に視線を向けた。
まわりはずいぶん静かになっている。
何か話そうと口を開きかけた時、一瞬静まり返った室内に、ひそひそ話す新井の声がやけにはっきり響いた。
「その店は『インフィニティ』っていうんだけど……」
ふいに三井が顔を上げる。
驚いたように目を見開き、新井を凝視する。
「とにかく変わった店で、一見 さんは、まず入れない。客は相当な金持ちばかりだ」
新井の声が少し大きくなっていた。
「内装は凝ってるし、カウンターの中には人形かと思うくらい綺麗なバーテンがいた。フロアにいる男娼たちも上玉ばかりで……」
「へえ……」
「行ってみたいな……」
「新井さんと一緒に行けば、入れるんですよね?」
新井は、一瞬黙る。
「……それがさ、あの後、何回行っても扉が開かないんだよな」
「どういうことですか?」
「行ったのは、だいぶ前だし……、もしかすると、もうやってないのかもな……」
なんだ、と三人が息を吐いた。
会話すること自体に飽きたのか、それぞれ「そろそろ」だの「お先に」だの言って腰を上げる。
新井もさすがに疲れた様子で、丸い身体を億劫そうに持ち上げて広間から出ていった。
その背中を三井がじっと目で追っていた。
「……知ってる店なのか?」
「え……?」
「今、新井さんが話してた……、『インフィニティ』とかいう店」
三井の表情が硬くなった。
知っているとも知らないとも答えず、完全に顔の動きを止める。陶器の人形のようだと思った。
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