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【4】SIDE蓮見(4)-8

「……悪い。いいんだ。なんとなく聞いてみただけ……」 「うん」  三井が視線を落とした。横顔に長い睫毛が影を落とす。  蓮見は静かに息を吐いた。  今まで気付かなかったのが不思議だ。三井は途方もなく美しい。そして同時に、この美貌を人に気付かせないための、何か特殊なバリアのようなものを張り巡らせているのだと思った。  そのバリアは時々外れることがある。その度に蓮見は動揺する。 (インフィニティという店には、男娼がいる……)  新井の話が本当ならば、そこに集まるのは選ばれた紳士ばかりだが、おそらく全員がゲイかバイセクシャルなのだろう。  性別や年齢、生まれ育った環境などと同様に、恋愛の対象や性指向についても、蓮見は極力、偏見を持たないように注意している。  特別な教育を受けたり、立派な思想を聞かされたりしたわけではないが、目の前の相手とまっすぐ向き合いたいと思えば、そういったフィルターは邪魔になると思うからだ。  蓮見自身はおそらく異性愛者なのだろう。  だが、同性愛者に対しても特に抵抗はなかった。西園寺と祐希の関係を知っても、まわりからの視線や心無い言葉で祐希が傷つくことは心配したが、彼ら自身のことを蓮見が特別視することはなかった。  蓮見にとって、あの二人はただのバカップルだ。ごく普通の恋人同士にしか見えない。  けれど、もし三井が……。  三井がその店に行ったことがあるとして、その理由が同性愛者だからだとしたら……。  そう考えると、胃のあたりに冷たい氷を詰め込まれたような気分になった。  目の前に座っている綺麗すぎる男を、ほかの男が色を帯びた目で見る。  触れる。  そう考えただけで、ひどく嫌だった。  うつむいた白い顔を改めて観察する。  肌は陶器のように肌理(きめ)が細かく、花を思わせる瑞々しさだ。形の整った小さな輪郭に、睫毛の長い大きな目と神様が摘まんだような細くまっすぐな鼻、薄く上品な唇とが寸分の狂いもなく並べられている。  ふだんは表情がしっかりしているせいで、きちんとした大人の男にしか見えない。だが、こうして造形だけを抜き出してみると、少女の姿を象った異国の人形のような繊細さだ。

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