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【4】SIDE蓮見(4)-9
もしも同性との恋愛を望むことがあるとしたら、目の前の人を選ばないはずがないと思った。
どんな男でも触れたいと思うだろう。
そう考えるだけで、何かに追い立てられるような焦りを感じた。
「蓮見……?」
名前を呼ばれて、はっと我に返る。
いつの間にか視線を上げた三井が、琥珀のような目でまっすぐ蓮見を見ていた。
「さっきの質問……」
「え……?」
「インフィニティ。あの店なら、知ってる」
思わずごくりと唾をのみこんだ。
淡々と、三井が続ける。
「知ってるけど、新井さんが言ってたようなお店じゃないよ。男娼なんていないし、そんなに変わった店でもない。ただ、誰にでもドアが開くわけじゃないってことは合ってる。それと……」
店のことは秘密。
決して、人に教えてはいけない。
インフィニティという店があるということさえ、人に話してはいけないのだと続ける。
「だから、今、僕から聞いたことも、忘れてくれる?」
静かに微笑んだ。おだやかないつもの顔で言われ、蓮見はただ頷いた。
理由のわからない強い焦燥だけが残った。
「じゃあ、僕たちもそろそろ行こうか……」
三井の言葉に、周囲を見回す。
あれほど賑やかだった宴会場には、空になった銘々膳がどこまでも並んでいるばかりで、人の姿はほとんどなくなっていた。
「あ、もしよかったら、どこかで飲み直さないか?」
咄嗟に出た言葉に、三井の顔がぱっと輝く。
蓮見の心は、何かの呪縛から解かれたようにふいに楽になった。
「館内でお酒が飲めるお店なら、大浴場のある地下の階に少しと、二階のロビーの近くのバーと、三階にラウンジがあったね」
「なんで、そんなこと把握してんだ?」
「バスの中で配られたパンレットに、書いてあった」
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