36 / 207
【4】SIDE蓮見(4)-11
「あ……。ち、違……。そうじゃなくて……」
何が違って、何がそうじゃないのか、よくわからないまま慌てて否定した。
「その、別に、ヘンな意図はないから……」
「うん……。わかってる」
ごめん、とどちらともなく小さく謝った。
ギクシャクとエレベーターに乗り込み、ほかの乗客と一緒に無言で階数表示を睨み続け、三階で降りる。
ラウンジのある階のホールは広く、右手に格子の引き戸がいくつか並んでいた。引き戸の脇には行灯 風の明かりが灯り、その下に半紙が下がっている。
「二つ目の引き戸が、うちの会社の男性用貸切風呂だから……」
そばまで行くと、明かりの下の半紙に「ウエストハウジング御一行様(殿方)」と、確かに書いてある。
引き戸を引いてみると、框の前に二人分のスリッパが並んでいた。
「誰かいるみたいだな」
ほかにも人がいるとわかり、ぎこちない空気が少し和らぐ。
「どんな感じか、ちょっと見てきてもいいか」
「うん。思ったより広かったよ」
スリッパを脱いで脱衣室の床に上がり、衝立 の影になったガラス戸を細く開けて浴室内を覗いた。
「ん……」
湯けむりの中から小さい水音とくぐもった声がかすかに聞こえた。
「雅人さん……、だめ……」
蓮見はぎょっとした。
全身の毛穴が開いて汗が噴き出す。
抑えた照明と湯けむりのせいで、人の判別まではつかない。しかし、蓮見には中にいるのが誰で、この場の状況がどんなものなのかが、瞬時に理解できた。
「蓮見?」
ともだちにシェアしよう!