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【4】SIDE蓮見(4)-12

 ガラス戸に指をかけたまま固まっている蓮見に、三井が並ぶ。 「どうかしたの?」  蓮見はとっさに三井を抱き寄せ、声を封じるために自分の胸に小さな頭を押し付けた。  ぱしゃんと水を打つ音がして、祐希の声が小さく響く。 「……だめ、誰か来たら」 「誰も来ないさ」 「でも、……っ」  三井がはっとしたように身じろいだ。  蓮見の腕からのがれようと、小さくもがく。  腕の中で真っ赤になって身を強張らせる三井の、白いうなじが目に入った。その瞬間、蓮見の中で何かがぱっと、鋭い閃光を放って弾けた。  自分でもわからない衝動につき動かされて、細い首の上の小さな頭を両手で包んで上げさせていた。明るい茶色の瞳が揺れ、花のような唇に強く視線が吸い寄せられる。 「……っ!」  驚きで動けない三井を、壁に押し付けて唇を塞いだ。  わずかに開いた隙間を押し広げ、舌を差し込んで深く求める。丹前の下の浴衣をかき乱すように、細い身体を抱きしめた。 「ん……」  夢中で舌を絡めた。  三井の白い喉が苦しそうに反っている。  それでも蜜を吸い続けた。衝動が止まらなかった。  がくんと三井の膝が崩れ、床に沈む。前のめりになって求め続けていた蓮見は、バランスを失い、三井と一緒に床の上に崩れ落ちた。  脱衣所の隅に置かれた椅子が勢いで倒れ、ガタンと大きな音が響く。  浴室内が静かになり、すぐにザバッと湯から人が上がる気配がした。 「行って……!」  急いで抱き起こした三井に、鋭く囁いた。  驚きに目を見開いたまま、頷きもせずに背を向けた三井が、何かに押されるように引き戸の向こうに消えた。

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