「急なんだけど、今からお客様をご案内していい？」 「あ、ああ」 　曖昧に視線を泳がせて答えた。 　心臓が大きな音を立てて騒いでいる。落ち着けと自分に言い聞かせるが、顔が赤く染まってゆくのがわかるようだった。 　下を向き、深呼吸をしながら床を掃いた。 　しばらくたって客を連れた三井が戻ってきた。 　視線を上げると、蓮見に気付いた安田夫人が軽く会釈する。今回も真由が一緒だった。ほかに二人、同じくらいの年代の母娘が後ろに立っていた。 「妹なんです」 　安田夫人が簡単に紹介する。 　軽く頭を下げて挨拶しながら、言われてみれば顔立ちが少し似ているなと思った。 「実家を二世帯住宅に建て替えて、義弟夫婦が同居してくれることになって……」 「だから、三井さんに頼むといいよって勧めたんだよね」 　真由が元気に後を続ける。 　夫人の妹とその娘らしい二人が、三井の案内でキッチンのほうに歩いていった。 「ウエストハウジングはいいよって何回も言ってるのに、叔母さんたち、ネットの評判がどうこう言って、なかなか信じてくれないんだもん」 「真由ちゃん、余計なことは言わなくていいの。どこの会社でも、悪い噂が書かれることはあるんだから……。ね、監督さん」 「ネット……、ですか？」 　正直、今まで気にした事がなかった。 　あまりよく知らないのだと正直に答えた。 「建築工事の口コミサイトみたいなのがあるんですって。でも、ああいうところに書き込む人って、どちらかというと不満がある人のほうが多いみたいで、どうしても辛口みたいで……」 　本当に悪質な業者の情報も書かれているが、明らかな嫌がらせや単なる不満を元にしたもの、中には同業者の足の引っ張り合いに近いものまで載っているという。 　逆に、自作自演を疑いたくなるような、何もかもを絶賛した高評価の書き込みもあり、どれを信じていいのかわからなくなると続けた。 40/38 1234567891011121314151617181920212223242526272829303132333435363738