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【5】SIDE蓮見(5)-4
とても長い時間、家は家族とともにある。
たくさんの思い出が家と家族との間で作られてゆく。その最初の思い出は、建てる時からすでに生まれているのだ。
この家は家族に愛されるだろう。
それは、家にとって最も幸せなことだ。
「お姉さん、ステキなおうちじゃない」
階段を下りてきながら、安田夫人の妹が言う。
「でしょう? どこもかしこも希望通り。ひとつも不満なんてないの」
「それは、すごいね。一生使う家だし、たぶん一度しか建てられないもんね。うちもそんなふうに建てたいなぁ」
従姉妹の「ユウちゃん」も、しきりに羨ましがっている。
「ねえ、ママ。うちも早く建てようよ」
「そうね。今度、パパとおばあちゃんたちと一緒に展示場見に行こうか」
真由がすかさず「三井さんに頼みたいって言ったほうがいいよ」と言った。
「引っ越しが待ち遠しい」
そう言いながら、四人が帰ってゆく。
見送りに出ていた三井が戻ってくると、ガランとした室内に二人きりになった。
「蓮見、ありがと……」
「うん……」
つい頬を掻きながら視線を落としてしまう。
「じゃあ、僕も行くね」
「え……」
慌てて顔を上げ、三井の腕に手を伸ばしていた。手首を掴んだ蓮見を、三井は驚いたように開いた目で見つめる。
綺麗な目だ。
「三井さん……、この前のこと」
思い出すと、また心臓がドキドキ騒ぎ出す。
一度深く息を吸って、最初に謝った。
「この前は、急にキスしてごめん」
一瞬泣きそうな目をした三井が、すっと顔を背ける。
「怒ってる?」
かすかに首が左右に振られ、不安に押し潰されそうだった心をなんとか鼓舞した。
「三井さん、俺……」
声が上ずる。
「俺、三井さんが、好きです」
「え……」
三井の目が再び蓮見に向けられる。その目をしっかりと見つめ返し、同じ言葉を繰り返す。言ってしまわないと心臓がどうにかなりそうだった。
「好きです……」
「蓮見、でも……」
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