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【5】SIDE蓮見(5)-6

「好きだ」  施主に心で詫びながら、三井の唇を塞いだ。  角度を変えて何度もキスをする。軽く舌を絡めると、三井の喉から甘い呻きが零れ落ちた。 「ん……」  作業着の胸のあたりを細く長い指が握りしめる。  いっそう強く抱き寄せると足の間で兆したものが三井の身体に当たった。そのまま強く押し当てると「はすみ……」と助けを求めるような囁きが三井の唇から漏れた。  こんなところで何をするつもりだと、自分を叱る。  左右と奥に部屋や水回りを配置した玄関ホールは、外部からの視線は遮ってくれるが、吹き抜けからは燦燦さんさんと光が降り注いでいた。  すぐにでも押し倒したい衝動を抑えて、蓮見は三井を解放した。 「この後、仕事あるんだよな」 「うん。坂本さかもとくんのお客さんのところに……」 「坂本か」  坂本は珍しく新卒採用の営業マンで、蓮見とは同期入社だ。寮でもよく話す。 「寮が一緒なんだよね」 「よく知ってるな」 「何度か一緒にいるのを見たから」  坂本は一月に国島展示場に異動になった。三井は時々、一緒に顧客の家を訪問していると言った。  単独行動の多い営業マンでも、そういうことがあるのかと思った。  約束の時間が決まっているというので、送り出すしかない。  近いうちにどこかで会う約束がしたかったが、今はまだ確実な予定が決められそうになく、そのことがひどくもどかしかった。  土曜日に休日出勤した蓮見は、ガラスで仕切られた喫煙所で西園寺に会った。  蓮見に煙草を吸う習慣はないが、自分の席から一番近い自販機がこの部屋にあるせいで、ヘビースモーカーのこの男とここでよく顔を合わせる。

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