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【5】SIDE蓮見(5)-7
「ずいぶん機嫌がいいな。このクソ忙しい時期に」
ふうっと、わざと人の顔に煙を吐きながら、西園寺が口の端を上げる。
「カノジョでもできたか」
「そんなヒマがあると思うか」
「じゃあ、なんだよ。教えろよ」
「あんたに関係ないだろ」
ふん、と鼻を鳴らす男を、うんざりと睨む。
祐希はなんだってこんなやつに惚れているのだろう。
確かに見た目はいい。いい年をしたデスクワーカーのくせに、ほぼ肉体労働に近い蓮見と変わらない体型を維持している。昔は賞を取る度に作品より本人の顔が大きく記事を飾ったくらいに、よすぎるほど顔がいい。いっそそっちを商品にすればいいだろうと思うレベルだ。
才能もあるし、仕事もできるし、たぶん金も持っている。それは認める。
だが、性格が悪い。
「まあ、休みの日にも会社に出てきてるようじゃ、カノジョができてもすぐにフラれるもんな」
過去に蓮見が経験した事実を、こうして平気で口にする性格の悪さだ。
本当にクソみたいに、性格が悪い。
けれど、三井と気持ちが通じ合ったばかりの蓮見は寛容だった。
「そういうあんたは、祐希に愛想をつかされないといいな」
「祐希なら、今、俺のベッドで寝てるよ」
にやにやと満足そうに笑う。
「そろそろ起きる頃だから、俺はもう帰る」
「仕事は終わったのかよ」
「当然だ。なにしろ四時出勤で頑張ったからな」
筒状の灰皿の縁で煙草をもみ消して、西園寺はガラスのドアを押した。
祐希は西園寺を「魔法使い」だと言う。
誰も知らないうちに全ての図面に目を通し、気になるところがあればそれぞれの担当に指示を出す。それだけで図面は見違えるほどよくなるのだと、目を輝かせて言っていた。
その「いつの間にか」は、こういう時間を当てているのだろう。そこは偉いと認めるしかない。
人は魔法を使えない。使えるのは自分の頭と手と足だけだ。
「そうだ。おまえに聞きたいことがあったんだ」
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