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【6】SIDE蓮見(6)-1

 翌週になって、ようやく少し余裕ができた。現場の引き渡しがいくつか終わり、忙しさは通常のレベルに戻る。  土曜日の昼に、たまった事務仕事を片付けるため一時間ほど出社した。  ガランとした工事部の席で書類をいくつか書き、いらなくなった工程表をシュレッダーにかける。  コンビニで買った鮭にぎりとパスタサラダと唐揚げを、ペットボトルのほうじ茶で流し込んだ後、ふと思い立って席を立った。  事務所を出た蓮見は工事部のクルマで国島展示場に向かった。本社からは幹線道路で十五分。  三井がいる展示場だ。  仕事の邪魔はしたくはないが、こうでもしないと顔を見ることもできない。せっかく思いが通じ合ったというのに、一度も会えないまま十日が過ぎていた。  三井に会いたかった。  もう一度抱きしめてキスをして、それから……。  その先のことを。  自分でも驚いている。これまで付き合ったどんな相手よりも、三井に触れたいと、三井を欲しいと願っていた。  頭の中ではすでに何度も肌を暴いて、己の欲望を突き立てている。想像の中の三井は蓮見の下で熱い息を吐き、官能に染まって乱れる姿さえ美しかった。  国島展示場が入る国島住宅公園は、郊外の幹線道路沿いにある。そこでは、およそ二十のハウスメーカーが住宅を展示している。展示といっても家だ。建っていると言ったほうがしっくりくるかもしれない。  植栽をほどこしたゆったりとした敷地に、各社が誇る最新性能を備えた住宅が郊外の住宅地のように整然と建ち並ぶ。  社名入りのバンを空地を兼ねた駐車スペースに停め、閑静な街並みを思わせる建物群の中を左右に顔を向けながら歩いた。  他社の建物を目にする機会は意外と少ないので、興味深く眺める。ジーンズにジャケットといういでたちのせいか、各社のテント脇に立つ案内係が「どうぞご覧になってください」と次々と声をかけてきた。  三月半ばの暖かい土曜日。子ども向けのイベントが行われているせいか、住宅公園内は大勢の家族連れで賑わっている。  粗品を用意しているメーカーも多く、ラップの箱やウェットティッシュの筒、人気の駄菓子を盛ったカゴがテントの下に置かれている。ロゴの入った風船、ビニール製の犬のおもちゃ。それらを手にした子どもたちが、植栽で彩られた仮の街並みの中を楽しそうに走り回る。  公園内の中ほどにあるウエストハウジングの前にも、明るい水色のテントが建っていた。  事務員の女性とともにそこに立つのは、三井だ。スーツに身を包んだ細身の姿が目に入ると、心臓がきゅっと掴まれたように甘く疼き、歓喜が身体の内側を満たす。  春の日を浴びたおだやかな笑顔を、ただ見ていた。  若い夫婦が三井の前に立った。  初めて来た客らしく、三井の質問に遠慮がちな笑みを返している。しばらく話した後で、何かのアンケートらしい紙を挟んだボードを三井が差し出した。  若夫婦は三井の話を聞き、頷いたり互いに顔を見合わせたりしながら用紙にペンを走らせ始めた。

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