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【6】SIDE蓮見(6)-2
家を買おうと考えた時、アプローチの仕方はいろいろある。
一生に一度の大きな買い物である。失敗はしたくない。
けれど、実際の「家」はまだどこにもなく、頭の中のイメージさえ漠然としている。
そんな時、モデルハウスの存在はかなり役に立つだろう。
住宅公園を楽しそうに歩く家族連れは、そろそろ、あるいはいつかは、家を持ちたいと考えている人々だ。
たった一度のその機会をウエストハウジングに託してくれるかどうかはわからない。
国島住宅公園内だけでも二十のハウスメーカーがしのぎを削っている。ほかの地区の総合展示場や、建売り住宅やマンションなど全く別の選択肢もある。
建築を請け負うための契約を取るのが営業の仕事とはいえ、その貴重な一回を受注するのは簡単ではないだろう。
「あれ、蓮見。何やってんの?」
ふいに声をかけられて振り向く。
同期の坂本が、手にコンビニの袋を下げて立っていた。今年から国島展示場に異動になったと三井が言っていたのを思い出す。
坂本は、希少な新卒採用の営業マンだ。ウエストハウジングのような中堅メーカーでは、営業職は中途採用の者がほとんどだった。
入れ替わりの激しい営業職の中でも新卒採用組の定着率は極端に低く、三年生き延びた坂本はほとんど絶滅危惧種と言われている。
蓮見たちの年に同期で入社した新卒者は十人だった。設計に一人、工事に二人、営業が七人。
三年経って残っているのは五人だけだ。辞めた五人は全て営業部の所属だった。
営業部長の西園寺清人氏が、研修体制などさまざまな対策を模索しているが、泥臭さの残る住宅営業の世界で海千山千の先輩たちと渡り合うのは、社会に出たばかりの若者たちには難しい。
その中で、坂本はよく頑張っている。
「もしかして、俺に会いに来てくれたの?」
毎日のように寮で顔を合わせているのに、それはないだろうと思ったが、嬉しそうに笑う坂本に、蓮見は特に否定の言葉は言わなかった。
一人分にしては量の多いコンビニの袋を見下ろす。
「今からメシか」
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