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【6】SIDE蓮見(6)-3

「うん。今日は天気もいいからか、お客さんが途切れなくて。なかなか休憩取れそうにないから、所長と三井さんの分も買ってきた」 「今日って三人だけなのか?」 「まさか。土曜日だし、全員出てるよ。佐藤さとうさんが、さっきやっと休憩に出たとこ。俺も行ってきていいって言われたんだけど、あの二人、放っておくと食べ損ねるからね。聞いたら何でもいいって言うから、適当に選んで買ってきた」  中肉中背で地味な容姿をしているが、よく笑うことと、こうして人のことにまで気を配る優しさと、美味しい店をたくさん知っていることが坂本の美点だ。こういう人柄のよさも、営業マンとして生き残る武器になるのかもしれない。  坂本の後について、裏手にある勝手口ドアから事務所に入る。  住宅展示場の間取りはおおむね一般住宅と同だが、営業所も兼ねているので、事務所として使われる部屋が必ずどこかにある。  玄関ホールを映したモニターが天井近くに下がっていて、その中に三井の姿が映っていた。先ほどの若夫婦と、まだ何か話している。 「あれ、蓮見か。監督が展示場に来るなんて珍しいな」  所長の別府が椅子を回して振り向く。 「お邪魔します」  軽く会釈して事務所に入った。  国島展示場の所長を務める別府は、四十代半ばのいかにも紳士然とした人物だ。勤続年数は十年を超え、営業マンとしては大ベテランだ。設計や工事の人間からも信頼されている。  十年は、営業社員としてはかなり長いほうだ。三年頑張った坂本で、すでに中堅。六年目の三井はベテランと言っていい。  営業マンのタイプはざっといくつかに分けられると、以前谷が言っていた。  人懐こさを武器にして客と親しくなる友だちタイプ、腰の低さで客に尽くす僕しもべタイプ、広い知識と誠実な対応で客の信頼を得る紳士タイプなどが一般的だそうだ。  ほかに、普通なら嫌われそうなアクの強い押し売りタイプや、仕事が出来なすぎて同情を買う残念タイプなども、一定数いるという。  最後の二つは大抵現場にトラブルを持ち込む、というのが、その時の話の落ちだった。

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