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【6】SIDE蓮見(6)-4

 坂本は友だちタイプだなと思った。  別府と三井は紳士タイプだろう。 「あの客、いけそうだな。坂本、出られるか」  モニターを見ていた別府のひと言に、まだ弁当を食べていた坂本が、慌てて口の中のものをのみ込んだ。 「はい」  大きく返事をして、食べかけの弁当を脇に置く。液体歯磨きで口を漱ぎ、鏡の前でネクタイと髪を軽く整えて、ホールに通じるドアからさっと出ていった。 「今のお客さん、坂本の担当になるんですか?」 「ん? ああ、たぶんな。なんで?」 「三井さんが対応してましたよね。そういう時って、三井さんのお客さんになるんじゃ……」  寮の食堂で、坂本たちが愚痴を零していた。  先輩社員の中にはずるい人間がたまにいて、見込みのある新規客が来店すると『前に一度案内したことがある』『以前の客の知り合いだ』などと言って横取りするらしい。  家を建てようとする人に自社の商品を説明し、設計の申し込みを受け、いくつかのステップを経て契約を取るのが営業の仕事だ。その数が歩合として給料に反映する。  その後も引き渡しが済むまでは、窓口となって担当を続けるが、どんな場合でも、最初のきっかけがなければ仕事は始まらない。  営業マンにとって、新規客を掴み、最初のアポイントメントを取ることはかなり重要なことなのだ。 「坂本の客にしてしまって、三井さんはいいんでしょうか……」  余計なことを言っている自覚はあった。  けれど、黙っていられなかった。不公平だと思ったのだ。  しかし、別府は「いいんだよ」と軽く笑う。 「蓮見。あれはすごい男だぞ」 「三井さんのことですか?」 「ああ。三井のおかげで、俺はずいぶん楽をしてる」  営業マンの給与は、契約を上げたことによる歩合の割合が大きい。それとは別に、四半期ごとの契約件数によって、基本給の額も変わってくるという。  会社ごとに多少の違いはあっても、おおむね似たような仕組みを取っているだろうと別府は言った。 「契約がゼロのままだと、基本給はかなりカットされる。二期連続で契約がなければ、ほとんどないのと同じだ。実質的なクビ。厳しいようだけど、結果重視の世界なんだよ」

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