52 / 207
【6】SIDE蓮見(6)-7
その頃の三井がどんな人だったのか知りたかった。
しかし、壁の時計を見上げた別府は「こんな時間か」と椅子から立ち上がる。
「ちょっと、交代してくるよ。三井、二時から打ち合わせが入ってるからな。その前にメシを食わせないと……」
「いってらっしゃい」
諦めるしかなさそうだった。
別府が出てゆくと、交代に三井が戻ってきた。
「蓮見……?」
「あ……」
「どうしたの?」
驚いた顔で聞かれ、何も誤魔化せずに「会いたかったから」と口にしていた。
ふわりと三井が微笑む。
胸が苦しくなる。
「蓮見、今日お休み?」
「ああ」
「展示場が終わるの七時くらいなんだけど、もしよかったら、一緒にごはん食べる?」
「え……」
「ずっと前、お昼に行きそびれたから……」
三井がにこりと笑う。
頷くだけで精いっぱいだった。
少しでも余計なことを言えば、この場で三井を抱きしめてキスしてしまいそうだ。
「お鍋、しようよ」
「え……?」
「材料、買って帰る」
「え……、鍋? 鍋が食いたいのか?」
「うん。うち、会社の寮から近いんだ。だから……」
その時、客の案内を終えた坂本が戻ってきた。
「あ、蓮見まだいた。三井さん! 早く食べちゃってください。お客さん来ちゃいますよ」
「うん。坂本くん、買い出しありがとう」
坂本が三井におにぎりを三つ手渡す。「蓮見も食べる?」と残りの一つを差し出されたが、礼を言って断った。
「そろそろ帰るよ。忙しいのに、邪魔して悪かったな」
「いいよ。なんか嬉しかったし。また、いつでも遊びに来てくれよ」
にこにこ笑う坂本に見送られて事務所を出た。
ともだちにシェアしよう!