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【6】SIDE蓮見(6)-7

 その頃の三井がどんな人だったのか知りたかった。  しかし、壁の時計を見上げた別府は「こんな時間か」と椅子から立ち上がる。 「ちょっと、交代してくるよ。三井、二時から打ち合わせが入ってるからな。その前にメシを食わせないと……」 「いってらっしゃい」  諦めるしかなさそうだった。  別府が出てゆくと、交代に三井が戻ってきた。 「蓮見……?」 「あ……」 「どうしたの?」  驚いた顔で聞かれ、何も誤魔化せずに「会いたかったから」と口にしていた。  ふわりと三井が微笑む。  胸が苦しくなる。 「蓮見、今日お休み?」 「ああ」 「展示場が終わるの七時くらいなんだけど、もしよかったら、一緒にごはん食べる?」 「え……」 「ずっと前、お昼に行きそびれたから……」  三井がにこりと笑う。  頷くだけで精いっぱいだった。  少しでも余計なことを言えば、この場で三井を抱きしめてキスしてしまいそうだ。 「お鍋、しようよ」 「え……?」 「材料、買って帰る」 「え……、鍋? 鍋が食いたいのか?」 「うん。うち、会社の寮から近いんだ。だから……」  その時、客の案内を終えた坂本が戻ってきた。 「あ、蓮見まだいた。三井さん! 早く食べちゃってください。お客さん来ちゃいますよ」 「うん。坂本くん、買い出しありがとう」  坂本が三井におにぎりを三つ手渡す。「蓮見も食べる?」と残りの一つを差し出されたが、礼を言って断った。 「そろそろ帰るよ。忙しいのに、邪魔して悪かったな」 「いいよ。なんか嬉しかったし。また、いつでも遊びに来てくれよ」  にこにこ笑う坂本に見送られて事務所を出た。

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