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【6】SIDE蓮見(6)-8
暖かい午後の日差しの下をクルマまで戻りながら、三井の言葉を反芻する。
(家に、行っていいのか……?)
それは、自分に何をされてもいいということか。
ドキドキと心臓が騒ぎ、心がふわふわ浮き立つ。だが、すぐになんとなく違うような気がしてきた。
三井の口調はあまりに屈託がなかった。親しくなった相手と鍋がしたい、ただそれだけのような……。
ただたんに食べたいものを口にしたに過ぎないのだろうと、小さな落胆を含みつつ結論を下す。
清潔な美貌を頭に描き、自分の欲望を恥じる。思いが通じたからと言って、すぐにそんな関係を望むのはよくない。もっと清らかな交際からスタートしなくては。
けれど、それなら、いつどんなふうに三井を手に入れればいいのだろう。夢の中ではすでに何度も犯してしまっている。
現実にしたいと望むのは時期尚早だろうか。
昼間の暖かさが嘘のように、夜の空気はひんやりと冷え込んでいた。
ダウンの前をきっちり閉じて、スマホを片手に寮の近くの私道の角に立った。しばらくたって最寄りのコンビニの横を三井が曲がってくる。
「三井さん」
「あ……」
手にはすでにスーパーの袋を二つ下げている。重そうなほうに手を伸ばして受け取った。
「本当に近いんだな」
「うん。コンビニの向こう側が駐車場で、アパートはここを入ったとこなんだ」
交差点からすぐの路地を三井は指差した。寮からは通り二本分しか離れていない。おそらく同じ町内だろう。
「行こうか」
数歩、歩いてから急に不安そうな声で言う。
「あの、家、古いんだけど……」
「え……?」
そんなことを気にするなら、どうして家に呼んだりするのだろう。三井の横顔を見ていたら、なんだかおかしくなった。
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