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【6】SIDE蓮見(6)-9
少し低い位置にあるさらさらした髪が愛しい。
黙っていると「でも、ゆっくり話せるのは嬉しいね」と三井が言った。
「同じ会社にいても、全然会わないもんね」
穏やかな声だ。
心地よく耳を傾けながら、並んで歩いた。
細い路地の奥に木造のアパートが見えた。確かに古く、昭和の香りが漂う。
二階の一番端、階段を上がってすぐの部屋が三井の家だと教えられ、蓮見はふいに足を止めた。
(このアパート……)
仕事柄、外からでも建物内部の間取りはおおよそわかる。アパート全体の大きさと廊下に並ぶドアの間隔を見て、単身者向けの間取りではないことに気付いた。
おそらく風呂とトイレ、脱衣所が別になった2DKだ。一人で住むには広すぎる。
「誰か、家にいるの?」
「え……?」
なぜ、一人暮らしだと決めつけたのだろう。
立ち止まった蓮見を、三井が見上げる。
「家族なら、いないよ」
今は留守だということか。
だが、三井は自分一人の家だと続ける。少し広いが、同じお家賃なら新しいより広いほうがいいと思ったのだと言った。
「そっか……」
ほっと息を吐いた。
三井が先に立って階段を昇る。鍵を挿してドアを開き「どうぞ」と促す。
小さな三和土に足を踏み入れた蓮見は、「へえ……」と短く呟いた。
独特の風情がある部屋だ。
ドアの内側が、そのまま八畳のダイニングキッチン、奥に六畳の和室が二つ並ぶ。古いアパートによくある間取りだ。
ダイニングキッチンには二人掛けのテーブルセット、奥に続く和室はリビングとして使えるようになっていて、籐のソファと木のローテーブルが置いてあった。
部屋だけでなく家具も古そうだ。レトロという表現が似合う。
特別、高価なものがあるわけではなかった。どちらかと言えばかなり質素な造りの建物だし、家具も量産品だ。
だが、全体的に品がいい。旧家の離れや歴史ある老舗ホテルの和洋折衷の内装を思い起こさせる。
「古い家具、わざわざ探したの?」
蓮見の問いに三井が首を振る。
「人からのいただきもの」
「全部?」
「うん」
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