56 / 207

【6】SIDE蓮見(6)-11

(遠いのか……)  頭の中だけで、三井のこれまでの人生について思いを巡らせる。  三井がウエストハウジングに入社したのは、約六年前だ。中途採用組だと、坂本からは聞いている。  二十二歳で中途採用なら、大卒ではない。となると、それまではどんな仕事をしていたのだろう。  うどんの切れ端を拾っていると、「お腹足りない?」と三井が聞いた。 「いや、大丈夫だけど……」  答えながら、まだ帰りたくないと思った。 「でも、もう少し飲みたいかも」  往生際の悪い言い訳に、三井がにこりと笑う。それだけで歓びが胸に満ちた。  食器をざっと片付け、リビングになっている和室に移動した。  ソファに座った蓮見の前に、三井がバケットとオリーブオイルを運んでくる。 「これしかないんだけど、食べる?」  鍋の後にフランスパン。  意外だが、気持ちが嬉しくて頷く。 「案外、日本酒に合うな」 「そうだね」 「そう言えば、日本酒と白ワインは似てるとかって、うちの姉貴が言ってたな。飲んべの言うことだから、当てにならないけど」 「お姉さんがいるんだ」 「姉貴と妹。うるさくてかなわない。寮に入ったのは、あの二人から逃げたいせいもあったかもしれないな」  あはは、と畳の上に正座したまま三井が笑う。 「蓮見は、長男か……」 「一応」  そっか、と小さく頷いて、どうしてか三井は一度、黙り込んだ。  うつむいて、寂しそうに笑う。 「……じゃあ、おうちを継がなきゃいけないね」  結婚して、跡継ぎになる子を儲けなければならない立場だ。  そう言われて、「まさか」と笑った。 「そんな大層な家じゃない。親父は普通の勤め人だし、継いで守るほどの財産や家名もないし」  三井が顔を上げる。不安そうな影が瞳の奥で揺れていた。 「……だから、恋人が同性でも何も問題ない」  驚いたように目を見開く。  蓮見はグラスをテーブルに戻し、ソファから畳に降りた。 「三井さんは、兄弟いる……?」 「……弟が、一人」 「三井さんに似てる?」 「わからない。まだ、小さ……」  言葉の最後を自分の口で奪いながら思った。  こんなに綺麗な男がほかにいるわけない。  もう、限界だった。  重ねた唇の角度を変え、音を立てて小さく吸う。開いた隙間から舌を差し入れ、逃げる舌先を追いかけた。  三井の指が蓮見のシャツをぎゅっと握る。幼いような仕草が愛しくて、夢中になって舌を絡ませた。 「三井さん……」

ともだちにシェアしよう!