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【6】SIDE蓮見(6)-11
(遠いのか……)
頭の中だけで、三井のこれまでの人生について思いを巡らせる。
三井がウエストハウジングに入社したのは、約六年前だ。中途採用組だと、坂本からは聞いている。
二十二歳で中途採用なら、大卒ではない。となると、それまではどんな仕事をしていたのだろう。
うどんの切れ端を拾っていると、「お腹足りない?」と三井が聞いた。
「いや、大丈夫だけど……」
答えながら、まだ帰りたくないと思った。
「でも、もう少し飲みたいかも」
往生際の悪い言い訳に、三井がにこりと笑う。それだけで歓びが胸に満ちた。
食器をざっと片付け、リビングになっている和室に移動した。
ソファに座った蓮見の前に、三井がバケットとオリーブオイルを運んでくる。
「これしかないんだけど、食べる?」
鍋の後にフランスパン。
意外だが、気持ちが嬉しくて頷く。
「案外、日本酒に合うな」
「そうだね」
「そう言えば、日本酒と白ワインは似てるとかって、うちの姉貴が言ってたな。飲んべの言うことだから、当てにならないけど」
「お姉さんがいるんだ」
「姉貴と妹。うるさくてかなわない。寮に入ったのは、あの二人から逃げたいせいもあったかもしれないな」
あはは、と畳の上に正座したまま三井が笑う。
「蓮見は、長男か……」
「一応」
そっか、と小さく頷いて、どうしてか三井は一度、黙り込んだ。
うつむいて、寂しそうに笑う。
「……じゃあ、おうちを継がなきゃいけないね」
結婚して、跡継ぎになる子を儲けなければならない立場だ。
そう言われて、「まさか」と笑った。
「そんな大層な家じゃない。親父は普通の勤め人だし、継いで守るほどの財産や家名もないし」
三井が顔を上げる。不安そうな影が瞳の奥で揺れていた。
「……だから、恋人が同性でも何も問題ない」
驚いたように目を見開く。
蓮見はグラスをテーブルに戻し、ソファから畳に降りた。
「三井さんは、兄弟いる……?」
「……弟が、一人」
「三井さんに似てる?」
「わからない。まだ、小さ……」
言葉の最後を自分の口で奪いながら思った。
こんなに綺麗な男がほかにいるわけない。
もう、限界だった。
重ねた唇の角度を変え、音を立てて小さく吸う。開いた隙間から舌を差し入れ、逃げる舌先を追いかけた。
三井の指が蓮見のシャツをぎゅっと握る。幼いような仕草が愛しくて、夢中になって舌を絡ませた。
「三井さん……」
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