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【8】SIDE蓮見(8)-3 ※R18
「本気じゃないとは言ってない」
宥めるように西園寺は言った。
「遊びならやめておけと言ったのに、抱いたんだからな」
それでも、いつか気持ちが冷めるかもしれない。この先、気になる異性が現れるかもしれない。家庭や子どもを持つ幸せを望む日も来るかもしれない。
そう西園寺は言う。
「そんなの、その時になってみなきゃわかんないだろ」
「わからないから……」
怒っているのか悲しんでいるのかわからない理由で、一度口元を歪め
「だから、やめておいてやれと、頼んでいる」
西園寺は言った。それから「どけ」と肩で蓮見を押しのけて、ガラスのドアを開けた。
喫煙室を出てゆくモデルのような後ろ姿を困惑の目で見送る。
「なんなんだよ……」
席に戻ると、待ち構えたように谷に呼ばれた。
「蓮見、ちょっと」
一つ離れた席まで行くと、谷は宙を睨むようにして腕を組んだまま椅子を回した。
「何かあったんですか」
「原邸な……」
階段手摺の仕様が曖昧なまま中間検査を受けた林邸は、その後は大きな問題もなく、図面通りに工事を終えた。
先日完成し、クリーニングも澄ませたばかりだ。後は引き渡しを待つだけの状態である。
「支払いについて、ちょっと揉めてるらしい」
「え……?」
工事部にまで連絡が来るということは、引き渡しができないほどの額だということか。
「引き渡しは、経理とか積算とかの話が済んでからだな」
経理まで巻き込むほどの額なのだろうか。担当した蓮見にも責任があるのかもしれない。
「具体的には、どんなことで揉めてるんですか」
「例の階段だな。あれがやっぱり不満らしくて、値引きを要求してきてる。ただ、うちとしては図面通りに施工してるわけだから、当然値引きなんかできない。営業からもそう伝えてるはずなんだけどな……」
納得できないの一点張りなので、積算の課長が詳しい話をし、経理からは支払いの遅延による損害賠償について説明しなければならないという。西園寺の兄、清人氏とともに今日か明日のうちに揃って訪問するということだった。
「新井さんは……」
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