69 / 207
【8】SIDE蓮見(8)-4 ※R18
新井は何と言っているのだろう。
「一緒に行って話をするのが筋だが、そのへんは西園寺部長が引き継ぐことになるかもな」
客の怒りは相当なもので、新井が同行することで余計に話がこじれてしまう恐れがあるという。
「まぁ、俺たちの責任てわけじゃないから……。ただ、引き渡しが遅れるから、それだけ頭に入れておいてくれ。改めて日程が決まったら、また教える」
「わかりました」
頭を下げて戻ろうとすると、谷が言った。
「引き渡し、俺も同行するよ。たぶん、おまえにとって初めての嫌な経験になるだろうから」
席に戻り、工程表を広げる。
原邸のことも気がかりだが、それ以上に三井のことが気になって集中できなかった。
体調を崩したという。わざわざ別府が西園寺に報告に来たというのだから、相当ひどいのかもしれない。昨日は全く気づかなかったけれど……。
だが、なぜ別府はそんなことを西園寺に伝えるのだろう。会議の後で立ち寄ったのだとしても、設計課の西園寺は三井の上司というわけでもない。
西園寺と三井はどういう関係なのか。
それより、三井は一人で辛くないだろうか。
最低限の工程確認と納品の手配を済ませると、蓮見は席を立った。
「お先に失礼します」
谷に挨拶すると「早いな」と驚かれる。時刻は十時をまわったところだった。
蓮見たちの寮は本社から歩いて十分ほどの場所にある。三井のアパートもその近くだ。
角のコンビニに寄って、取りあえずレトルト粥とイオン系の飲み物と、迷った末に氷を買って、アパートに向かう。症状を聞いていないので、熱がなければ氷は必要ないだろうが、あった場合には役に立つはずだ。
電気が消えていれば帰ろうと思って窓を見上げると、リビングとして使っている側の部屋に明かりが点いていた。ほっと息を吐きながら階段に足を向ける。
起きていられるなら、そんなにひどくはないのかもしれない。
二日続けて尋ねた部屋の、年代物のチャイムを押した。インターホンではなく昔ながらのチャイムで、ドアの向こうでピンポンと明るい音を奏でる。
「蓮見……?」
ドアを開けた三井は目を丸くしていた。三日も続けて訪ねれば、さすがに驚かれても仕方ない。
「体調、崩したって聞いて……」
ともだちにシェアしよう!