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【9】SIDE蓮見(9)-4
風呂のタイルを磨いたり、窓を磨いたり、かさばるものの洗濯、季節ごとのモノの出し入れ。それまで休日に片付けていた家事が滞る。
三井がそれらを気にしている。気付いた蓮見は、大丈夫だと遠慮する三井を説き伏せて、土日の間に少しずつ片付けるようになった。
三井のいない時間に、二人が使う部屋を整える。ままごとめいた喜びに浸る自分に呆れつつも、こんなことさえ嬉しいものかと、しみじみと幸せを感じた。
そんな五月晴れのような明るい蓮見の心の中に、二つだけ小さな疑問が雲のように浮かんでいた。
三井はほとんど自分のことを話さない。それが一つ。
もう一つは、あまりに下世話なことだと自分を恥じるが、金のことだ。
営業マンはクルマや服に贅沢をするのが普通だと、蓮見は思っていた。トップクラスの営業マンたちは、その売り上げを誇るように、それらに金をかける。
成績が一番だという三井は、ロゴの入った社用車に乗り支給品の防寒具を身に着けている。それだけではない。三井の暮らしぶりは全体的に質素だ。
どうしても違和感を覚える。
何に金を使っているのだろうという単純な疑問が芽生えるが、それを安易に口にしない程度の躾は受けている。
いずれにせよ、三井にとって金が大切なものならば、蓮見も大事にしたい。
いっそのこと、自分もここで暮らしたらどうだろうかと思い始めた。
梅雨を迎える頃には週の半分を三井の家で過ごすようになっていた。倹約はしても吝嗇家ではない三井は何も言わないが、人増せば水増すというように、蓮見の存在は家計に影響しているはずだ。
家賃のことも考えると、やはりきちんとしたほうがいいと思うようになった。
(それに……)
布団を干しながら、蓮見は思う。
一緒に暮せば、どんなに忙しくても家で三井に会える。
素晴らしい。「同棲」という言葉を口の中で呟く。その甘酸っぱい響きに、蓮見は一人で赤面した。
(三井さんに相談してみよう)
心に決めた。幸せだと、心から思った。
事件が起きたのは、そんな矢先のことだった。
雨の多い季節で、現場の作業が制限される。養生だけ確認して事務所に戻ると、営業部長室の前に別府と三井が立っていた。
別府は所長会議を終えたところだろう。三井がいる理由はわからない。
前の日に会ったばかりだが、やはり三井の姿を見ると嬉しかった。頬を緩めていると、いきなりゴツンと頭の上から拳が落ちた。
蓮見の頭をこの位置から殴れる男は、社内に一人しかいない。
「何すんだよ」
「ちょっと来い」
西園寺に腕を掴まれ、喫煙室に入る。
「おまえ、人の言うこと全然聞かないね」
「あんたの言うことなんか、聞く義務はないからな」
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