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【9】SIDE蓮見(9)-5
「三井に構うのは、よせと……」
西園寺が言いかけた時、その言葉を遮るようにガシャンと何かが倒れる音がした。女性の叫び声と、新井が怒鳴り散らす声が後に続く。
「ふざけるな! ふざけるなよ! 俺を誰だと思ってるんだ! 俺が何年この仕事で食ってきたか、おまえらわかってんのか!」
カタログスタンドを力任せに蹴り上げて、喚いている。
事務を担当する女子社員が二人、慌ててカウンターの奥に逃げ込んでいった。
「二期契約がないくらい、なんだって言うんだよ! そんなの、この先いくらでも取り返せるだろ! それを……」
騒ぎを聞きつけて上の階からも人が降りてくる。
会議の後、ついでに設計課に顔を出していた各営業所の所長たち、設計課員、雨で事務所に戻っていた工事部の人間など、かなりの人が集まり、あっという間に黒山の人だかりとなった。
「何をしている!」
西園寺が人の波をかき分けて新井の前に出る。後を追うと、新井が顔をあげたところだった。
近く立つ三井に向かって暴言を吐き始める。
「何、見てんだよ。二期連続営業成績一位の三井遥さまがよぁ。俺がクビになるのが、そんなに面白いか」
酒でも飲んでいるのか。
そう疑いたくなるような、ひどい絡み方だ。
「綺麗な顔だよなぁ。俺が何も知らないと思って、すかしてんじゃねえぞ」
舐めるような目で、背の低い新井が三井を見上げる。
そして言った。
「男娼上がりの淫売のくせによ!」
ザワリと空気が揺れた。
「どこかで見た顔だと思って、写真を探したんだよ。おまえ『インフィニティ』にいた男娼だろう」
綺麗な男ばかりの中でも、一際目を引いた。だから、こっそり写真を撮って保存しておいたのだという。
「撮影禁止って言われたけどな、そんなの知るか。個人で持っる分にはわかりゃしないだろ」
役に立ったよ。
口元を歪め、新井がさらに一歩三井に近づく。蒼白な顔を下から見据え、「よく化けたもんだよなぁ」と下卑た笑いを浮かべた。
「おまえら、よく覚えとけよ。こいつはこの顔で契約取ってるんだ。これだけ上玉なら、成績なんかいくらでも作れらぁ。顔だけじゃなくて身体も使ってんだろ? 得意中の得意だもんな。枕営業かけんのは奥さんのほうか、それとも旦那……」
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