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【9】SIDE蓮見(9)-7
喫煙室は人で溢れていた。顎で合図し、西園寺と二人で非常階段に出た。
薄暗い空。
絶え間なく雨が降っている。
狭い庇の下に立ち、同じ高さに頭の位置がある男に、視線を向けずに言葉を投げた。
「知ってることがあるなら、教えろ」
西園寺が煙草に火を点ける。
「その前に……。聞くけど、おまえなんで新井を殴った。男娼上がりって聞いて、頭に血が上ったのか」
「あの人は、そんな仕事してない」
初めて抱いた時の三井の様子を、蓮見ははっきり覚えている。身体を重ねることに慣れた人間の反応ではなかった。
それに……。
「もし、そうだったとしても、関係ない。過去は過去だ」
「ふうん……」
「あんたは、三井さんのこと、何か知ってるんだろ。問題があるなら教えてくれ。どうして俺じゃだめなのか、言え」
うーん、と西園寺が考え込む。
「絶対だめってわけでも、ないんだがな……」
のらくらと言葉を濁す男にイライラした。
「ちなみにおまえは、三井のこと、どれくらい知ってる?」
「いい加減にしろよ。聞いてんのは俺だぞ」
「いいから言ってみろ」
にっと笑って促され、しぶしぶ口を開きかける。すると、西園寺は「身体のことじゃねえぞ。どこがいいとか、好きな体位とか、そういうこと以外で」とわざわざ念を押す。
殴り倒したくなった。
「弟がいる」
「ほう……」
「まだ、小さい弟だ。……あと、鍋が好きだ」
「へえ……。それから?」
「それから……」
仕事ができる、言った瞬間、革靴でつま先を踏まれた。
「三ヶ月くらい付き合ってんだろ。もっとないのかよ」
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