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【9】SIDE蓮見(9)-10
「だが、二度目はない」
煙草の先を見つめ、「セキュリティは神様の手に握られてるからな」と言った。
吸殻の捨て場に迷う素振りに気付いて「下に落とすなよ」と釘を刺す。工事部の車両を止めてある階段下は監督が当番制で掃除をしているのだ。
嫌そうな顔で蓮見を見た後、短くなった煙草を咥えて西園寺は言った。
「三井は、あの店のドアの前に落ちてた。それを神様が拾った」
「え……」
西園寺の顔を凝視する。思いのほか近い場所にあった。
「痩せた捨て猫みたいな姿で死にかけてた」
「どういう……」
「あの店におまえを連れて行く。そこで話を聞いて、三井を重いと感じたら、今度こそ離れてやってくれ。一生あいつのそばにはいられないなら、せめて失った時の傷が浅いうちに、別れてやれ……」
おまえは若い、と西園寺は続けた。
「まだ二十三の、女も抱けるけっこうな男前だ。この先、一生、三井一人でいられるはずがない」
「そんなの、まだ……」
「わからない、か。だけど、それじゃあダメなんだよ。絶対に、生涯あいつを守ると誓えないなら……」
「誓える」
怒ったような口調になった。
「誓える。誓うさ。それに、俺は二十四になった」
ふん、と不愉快な男が鼻を鳴らす。バカにされたようで腹立たしい。
「そこまで言うなら、もう一つ先に教えておいてやるよ。三井は神様にこう言ってる」
火を消した吸殻を、西園寺が駐車場に投げ捨てる。
『僕は母を殺した』
「――あいつ、自分の母親を殺したんだってさ」
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