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【10】SIDE三井遥(1)-1
「遥 くんのお名前を伺った時、最初は失礼ながら女の子のものではないかと思いましたけど、実際にお会いしてみるととても似合ってらして、本当にステキなお名前だと感じましたわ。こんなに可愛らしい方だったんですのね」
「可愛らしいだけでなく、遥くんはとても優秀なんですよ。先日の模試では、全国の小学生の中で、どの科目も十位以内に入っていたんですから。全体では七位です。本当に素晴らしい」
「全国で七位とはすごいな。宗森 家の将来は安泰ということですな」
天井の高い応接間には、スワロフスキーのシャンデリアが下がっていた。欄間には竜の彫り物が踊り、床の間の掛け軸は名のある作家の花鳥図だ。畳を敷き詰めた広い座敷に緞通だんつうの絨毯が敷かれ、螺鈿らでん細工を施したテーブルを囲むように皮のソファが置かれている。
明治期の和洋折衷様式をそのまま引き継いだ豪奢な部屋で、遥は父壮介 の隣で一人掛けソファにすっぽりと収まっていた。向かいの大きなソファに座る三人の大人たちが、口々に遥を褒め称える。
十歳の遥にとって、それはすでに慣れた光景だった。父の隣で黙って微笑んでいれば、頃合いを見てお手伝いの梅子 が声をかけてくれる。
宗森家は日本海側北部に位置する一地方の旧家だ。家柄が古いだけでなく、広大な農地や山林を含む不動産を多く所有し、地元一の建設会社をはじめ、地方金融、不動産、流通、観光など、多岐にわたって事業を展開している。政治家とも太いパイプを持ち、全ての面に於いてこの土地では宗森家が第一。その当主である壮介の力をしのぐ者はなかった。
遥は壮介の一人息子として生まれた。宗森家、ただ一人の跡継ぎである。
母である梓 は容姿の美しさを壮介に見初められ、家柄の釣り合いを取るためにわざわざ宗森家の遠縁に当たる三井みつい家の養女に入ってから、本妻に迎えられた。
遥を産んだ後はすっかり身体が弱くなり、ほとんど奥の座敷で横になって暮らしている。遥が見舞えばいつでも優しく迎えてくれるので、そのことで遥が寂しい思いをすることはなかった。
周囲から大切に扱われ、家庭の中はおだやか。遥の子ども時代は幸福だった。
母に瓜二つの容姿は幼い頃から人の目を引いた。
成長すると、今度は知能の高さが周囲の注目の的となった。遥の優秀さは群を抜いていた。
壮介は喜び、遥が小学校に上がると、近隣にはまだ珍しかった中学受験向けの進学塾を作らせた。遥を東京の名門私立中に行かせることが目的だった。
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