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【10】SIDE三井遥(1)-3

「お兄様、花歩はお勉強しに来たの。お母様が、遥お兄様に見てもらって、花歩も塾で一番を取りなさいって」  まだ三年生なのに? 遥は目を丸くしたが、東京などでは三年生くらいから進学塾に通うのは普通だとも聞いた。  花歩が嫌でないのなら、勉強すること自体は素晴らしいことだ。遥は花歩に微笑んだ。 「じゃあ、一緒に勉強しようね」  二十帖の畳の間に置かれた、どっしりとした一枚板の欅の座卓で、遥と花歩はノートを開いた。  花歩もまた利発な子どもだった。顔立ちも可愛らしく整っている。  両家の間では、花歩を遥にという暗黙の了解が昔からあった。それを遥が知ったのはだいぶ後になってからだが、この頃から、二人でいると大人たちが満足そうに目を細めることに気付いていた。  小さな内裏雛のようだと言って、微笑み合うのだ。 「おじ様のお誕生日プレゼント、何にするか決めた?」 「シャーロックホームズが持ってるみたいな、外国製のステッキはどうかな」 「いいと思うわ。おじ様、遥お兄様のこと自慢するのが大好きですもの。いつも持って歩けるものなら、きっと喜ぶわ」  八歳とは思えない花歩の意見の鋭さに、遥は感心した。  早速、梅子に頼んで注文してもらう。  梅子は壮介に相談するだろうから、結局のところ、壮介は自分で自分のプレゼントを選ぶことになる。それでも、遥が壮介にステッキを贈ったという「形かたち」が大事なのだった。 「遥お兄様は、中学になったら東京に行っちゃうの?」 「わからないよ。お父さんが決めることだから」 「そうなの? お兄様のことなのに?」  花歩の言葉に遥は笑った。 「当たり前だよ」  ここでは全て壮介が決める。宗森家の当主の言葉は絶対だった。  遥は東京の最難関私立中学を受験し、見事に合格を果たした。  宗森家は東京都内に新しいマンションを購入し、梅子を付けて、遥を東京に送り出す準備を進めた。  梓は寂しがったが、遥の将来を考えれば諦めるしかない。遥の代には宗森家の繁栄は一地方に留まらなくなるだろう。一流の人間と知り合うのに、早すぎるということはないのだ。  将来の人脈にもつながる友を、いまから探すのである。  そのための投資として、マンションの一つや二つは安いものだと壮介は考えたのだ。

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