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【10】SIDE三井遥(1)-7
この頃になると、さすがに遥も自分の性指向について自覚し始めていた。
女性に興味が持てない。
同性に関心があるのかと聞かれれば、それにもはっきりした答えは見つからなかったが、少なくとも、友人たちの話題に共感できない自分に気づいていた。
卑猥な話を聞いたり、女性の裸体を写した写真を見せられたりしても、ドキドキすることも興奮することもない。その身体が美しいか醜いかという判断はできても、それを使って自分が何かをできるかと考えると、首を傾げるしかないのだった。
何も感じない。もっと下世話な言い方をすれば、勃たないのだった。
もともと淡白で自慰の回数も少なく、性的な欲求を満たすというより生理的な処理として行うことがほとんどだった。性欲自体が乏しいのだと思う。
けれど、それを差し引いても女性との結婚は無理だろうと思った。
身体が全く反応しない。何をしても、おそらく無理だ。
世の中の何割かはそのような人間だと聞いたことがある。無理に結婚する必要はない。生涯独身でも生きてゆける。
そう自分に言い聞かせ、納得もしていた。
遥の置かれた立場では、それが許されないことだと気付かずに。
けれど、気付いたとしても、なにができただろう。どうすることもできなかったのではないだろうか。
一度は気を緩めたかに見えた壮介だったが、大学受験が迫る頃になると、高校の進路担当者が再三勧めたにもかかわらず、遥を東京に出すことを拒んだ。
「自分の進路なんだから、お父さんの意見にばかり従ってちゃだめだよ」
東大への進学を熱心に勧めてくれる教師に対し、遥は、自分は家を継ぐだけの身なので、どこの大学でも構わないのだと答えた。
進学先へのこだわりがないのは本当だった。
ただ、それ以上に、あまり遥に親身になり壮介に逆らうようなことをすれば、教師である彼自身が困った立場に立たされるのではないかと、そんな危惧が遥の中にはあった。
この土地に住む限り壮介には逆らわないほうがいい。壮介は決して敵に回してはいけない相手なのだ。
旧帝大の一つである国立大学が遥の志望校になった。
宗森家から通うには遠く、進学が決まれば家を出る必要があった。その点は東京に行かせても同じではないかと思われたが、こちらは三井家の本宅から十分通える距離だった。
宗森家には及ばないまでも、離れと広い母屋からなる地区一番の広い屋敷を三井家は有していた。遥が下宿するのは十分可能だった。
三井家であれば、壮介としても安心だったのだろう。それは理解できた。
しかし……。
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