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【10】SIDE三井遥(1)-11
「よく考えるんだ、遥。私はおまえを手放したくない」
壮介は静かに言った。
「花歩を妻に迎え、医者の手を借りてでも子を残せばそれでいい。後は、人の目の届かぬところで、自分を解放しろ」
それが、壮介なりの最大の譲歩の言葉だった。
「おまえは自慢の息子だ。優秀な跡取りになる。おまえを手放したくない」
遥を手放したくないと、壮介は二度繰り返した。
それでも、遥の答えは変わらなかった。
「花歩とは、結婚しません」
生まれて初めて父に逆らった。出ていけと言うなら出ていく。梓と二人、生きていくくらい、どうにかなる。そう考え、覚悟もした。
しかし、そこにはまだ甘えがあった。
――宗森壮介に逆らうことはできない。
たとえたった一人の息子であっても……。
遥が思うよりずっと、宗森家の当主の意思は絶対だったのである。
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