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【11】SIDE三井遥(2)-6
遥も古い記憶をたどった。
「うん。そんなことがあったね」
まだ小学生くらいの頃だ。
テーブルの中央に載せた大きな鍋から、各自好きなものを取り分けて食べたことがある。
梅子が手を貸そうとすると、壮介が「いいよ、梅子」と言った。「後は私たちでやるから」と続け、湯気の向こうで笑顔を見せていた。
三人だけで食卓を囲み、壮介と梓が遥の世話を焼く。それがひどく嬉しかったことを思い出し、胸が温かくなる。
「そっか。確かに、お鍋って一人じゃつまらないね」
壮介の不在は残念だが、こうなった今は仕方ない。
梓は微笑んで、三井の家に来てよかったと思うことがあると言った。
「今までで一番、遥が近くにいるわ」
大きな屋敷で何不自由なく暮らしていても、あの家では一人の時間が長かったと梓は言った。遥の顔が見たいと思っても、人に頼まなければ呼んでもらうこともできない。
「自分が起きられない日でも、毎日、遥と一緒にごはんが食べられる。それが、すごく嬉しいの」
「そっか」
「うん。ねえ、遥。お鍋って、ほんとに美味しいわね」
そう言って、幸せそうに笑った。
鶏と野菜の水炊きから、冷え込んだ空気を融かすように湯気が上がっていた。
あと、一年と少し。どうにか乗り越えられるかもしれないと、その時の遥は思った。
年が明けて、新雪で真っ白になった庭に出た遥は、雲一つない空を見上げていた。
ふと庭木の先を見ると、離れに移って以来初めて見る花歩の姿があった。
小さな池を挟んだ庭木の向こう側に母屋は建っている。その車寄せの、綺麗に雪を寄せた石畳の上に、正月用の豪華な振り袖姿で迎えのクルマを待っていた。
白いファーでできたショールを肩にかけ、顔は薄い化粧で彩られている。少しの憂いを含んだ横顔が、急に大人びてしまったように見えた。
遥の視線に気付いて、花歩がこちらに顔を向けた。
梓が切った不格好な髪の遥を見て、少し驚いた顔をする。わずかに泣きそうな顔をするが、すぐに目を反らし、迎えに来たクルマの中にあでやかな着物の裾を捌いて、ゆっくりと乗り込んで去っていった。
それが、花歩との最後の邂逅だった。
一月が終わりに近づく頃、一段と冷え込む日が続いた。家の中でもコートを着込んで、食卓を兼ねた折り畳み式テーブルに向かって勉強を続ける。
三年生の後期試験が目の前に迫っていた。
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