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【11】SIDE三井遥(2)-7
かじかむ手に息を吹きかけていると、梓が起きてきて背中から毛布をかけてくれた。
「遥、寒くない?」
「だいじょうぶだよ。お母さんこそ、あったかくして寝てなくちゃ」
「うん」
返事をして、コンコンと少しせき込む。
「ほら、ちゃんと布団に入ってて」
「うん。でも、今日は熱も下がったし、お風呂、もらってこようかと思って」
この日は特に冷え込んでいた。母屋の人たちが入り終わるのを待つと、十二時近くなる。
外は氷点下何度くらいになるのだろう。
「もう一日我慢したら? 今日はほんとに寒いし」
「うん……。でも、三日も寝込んでたから、髪の毛がなんだかしっとりしちゃって、気持ち悪いの」
緩く結んだだけの長い髪を指で摘まむ。臥せってばかりの暮らしでも、いつも綺麗に整えていた髪に、幾筋かの白いものが混じっていた。
「じゃあ、少し早めに入らせてもらったら?」
「そうね。そうする……」
「あったかくして行ってきてね」
「うん。遥も、試験勉強、無理しないでね」
「うん」
「あと一年ね」
梓が微笑む。
あと一年。
あと一年経てば、大学を卒業して、どこか遠い場所で働くことができる。ここを出て、梓と二人で自由に暮らすことができる。
まだ少しふらつく足で、梓はコートの上にショールを巻いて出ていった。離れの引き戸を閉めながら、また少し咳き込む。
コンコン、という乾いた音が耳に残った。
時計を見ると、時刻は十一時前だった。いつもより一時間ほど早い。
まだ誰かが湯を使っていたら、少し待たねばならないだろう。一度戻るのにも今夜は冷えるし、母屋の裏口で待つのも寒い。
早めに行けなどと言わないほうがよかっただろうかと思った。
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