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【12】SIDE蓮見(10)-2
どうやってそれだけのことをこなしているのかと不思議に思うほどだ。
蓮見と過ごす時間が増えて手が回らない家事ができてくると、黙っていてもそれを気にしているのがわかった。だから蓮見は、戸惑う三井を説き伏せて、土日にそれらを片付けるようになったのだ。
喜んでくれたのかどうかはわからない。ただ、放っておけば、眠る時間を削ってでもどうにかしようとするのではないかと思って、怖かった。
三井は、絶対に「できない」と言わない。
抱かれる時でさえ、どんなに激しくしても懸命に蓮見に応えようとする。それをいじらしく思う時がある。
たぶん、それらの全部がつながっているのだ。
新井を見下ろしていた無機質な人形のような顔と、瞳の奥に浮かんでいた暗い森のような闇の深さが、蓮見の心に新たな焦燥を芽生えさせていた。
「三井さんは、絶対に、『できない』って言わないんだ……」
「どんな特殊なプレイを要求してるんだよ」
バカな男を無視して言葉を続ける。
「なんで、あんなに頑張るのか、知りたいとは思う……」
「だから、それをおまえに話すために、あいつのフクザツな背景を教えるって言ってんだよ。おまえに、本当に三井を引き受ける覚悟があるなら」
まっすぐ視線を据えられ、それと同じ強さで睨み返す。
蓮見の顔にゆっくりと煙を吹きかけ、「週末、空けておけ」と西園寺は言った。
「神様に、話を付けておく」
――インフィニティに連れてゆく。
「それは、必要なことなのか」
三井が話したがらない過去を他人の口から聞くことが。
「おまえに覚悟があるならな」
西園寺は同じ言葉を繰り返した。
「わかった」
「一度、根っこから抜かれた薔薇を、神様が新しい土に植えた。やっと、根を張り始めたそれをあいつは枯らしたくないだろう」
神様……。
「俺もだ」
西園寺の吐いた煙が、雨の中をゆっくり流れてゆく。
「逃げるなよ」
(なめんな)
心の中で呟いて、鉄の扉を開けた。
「吸殻、ちゃんと捨てろよな」
最悪のマナーを持つ男に念を押す。鼻に皺を寄せた西園寺が、それでも「わかったよ」と呟いて、どこからか取り出した携帯灰皿を蓮見に振ってみせた。
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