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【13】SIDE三井遥(3)-2

 遥の居場所はどこにもなかった。  雪の故郷より暖かいだろうと思った土地は、どこもかしこも冷たいコンクリートに覆われ、立春前の寒空の下を吹雪にも似た突風が吹き抜けてゆく。  何かから逃げるように、人の少ないほうへ少ないほうへと足を向けた。  夜になってもどこかへ泊まる金はなく、外で眠ればそのまま目を覚まさずに死ねるだろうかと思いながら、寂れた街の外れにある小さな公園で足を休めていた。  トイレとベンチがあるだけの、土の見えない公園だった。  昼間は寂れていた街が、夜が更けるにつれ、おびただしい電飾に飾られた歓楽の街に変わってゆく。 「ちょっとそこのお兄さん、こんなところで何してるの?」  ふいに話しかけられて顔を上げる。 「あら、ずいぶん綺麗な顔してるわね。暇なら、ちょっと遊んでいかない?」  怯えて首を振る遥を、女性のような口調の男が値踏みするように上から下まで眺める。 「あなた、お金がないんじゃない? だったら、うちで働きなさいよ。あなたみたいな美人、大歓迎。お給料もはずむわよ」 「働く……?」 「ええ。いいから、ちょっといらっしゃい」  連れていかれたのは、全体的に紫がかった内装の夜の店だった。若い男たちがサラリーマン風の男たちに酒を注いで、笑いかけている。女性のように着飾った男も何人かいた。 「うちは、本番までするかどうかは、自分で選べるの。無理強いはしないから安心して」 「本番……?」 「たくさん稼ぐなら、そっちもしたほうがいいと思うけど」  すぐ近くのボックス席で、高い笑い声が上がった。若い男が年配の男に足の間を触らせている。 「あんなふうにちょっと触らせて、あとはせいぜい舐めるくらいでも、それなりのチップはもらえるわ」 「舐める?」 「やだ。とぼけてるの?」  とぼけているつもりはなかった。 「ほらあそこ。お店の中じゃなくて、あの子なんかはもう上の部屋に行けばいいのに」  示された先を見ると、「先生」と呼ばれた初老の男が、太った腹の下のズボンの前立てを開いていた。遥と変わらない年頃の青年が、にこにこ笑いながら男の足の間に顔を近付ける。

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