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【13】SIDE三井遥(3)-4

 ポケットから免許証を出して見せた。 「ああ、今日が誕生日じゃないか。てことは、二十一か」  警官は呟き、記載されている住所を確認して、もう一度しげしげと遥の顔を見る。 「成人してるなら、まぁいいんだけどな。あんたみたいなのは、一番狙われやすい。気を付けたほうがいい」 「狙われる……?」 「そうだ。地方から出てきたばかりのもの慣れない様子。若くて見た目がいいこと。あとは、行き場を決めてなさそうなところか」  警官は、わずかな着替えを詰めたボストンバッグを見下ろし、ため息を吐く。 「子どもなら、保護して親元に送り返すとこだ。いかがわしい店で働くつもりがないなら、このあたりからは離れたほうがいい」  それだけ言うと、警官は進行方向に立ち去った。  その背中が雑踏に消えると、すぐに、別の男たちが声をかけてくる。捕まる前に遥は逃げた。  次々に現れる彼らをかわして、土地勘のない街を逃げまどう。 「困ってるんでしょ。いい仕事あるよ」 「綺麗な顔だね。うちで働かない?」 「お金がないんだろ。働けよ」 「働かざる者、食うべからずだよ」 「食べものでも着るものでも、何かが欲しいならそれだけの仕事をしなくちゃ」  「甘えてるんじゃないよ……」  その全てから逃げるように、街の中をさまよい歩いた。  最初の駅にたどり着き、建物の影で夜が明けるのを待った。電車が動き始めると、残り僅かな金を使って行けるところまで移動した。  小さな空が見えるゴミゴミとした街に降り立った。  場所が変わっても、自分の居場所がないことに変わりはなかった。  誰かに捕まることだけを恐れて歩き回り、夜は交番の近くにある公園で過ごした。朝になると、少しでも暖かい場所を探して浅い眠りに就く。トイレで顔を洗い、水を飲み、何も食べずに数日が過ぎた。  身体に力が入らなくなり、ものを考えるのが億劫になっていった。  ベンチに腰掛けて目を閉じていると、また誰かが声をかける。 「お兄さん、こんなところで寝てたら風邪ひくよ?」  どうにか身体を起こし、身構えながら顔を上げる。  遥と変わらない年頃の学生風の男が立っていた。 「どうしたの? 行くとこないの?」  警戒しながらかすかに頷く。男は歯を見せてにっこりと笑った。

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