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【13】SIDE三井遥(3)-5

「だったら、うちすぐそこだから、来れば? 腹が減ってるみたいだし、ピザでも取って一緒に食べようよ」  屈託のない笑顔で言う。 「でも……」 「なんでだろう。お兄さんのこと放っておけないんだよねぇ。もしかして、遠くから来て、行くところとかも決まってないんなんじゃない?」  青年が眉を寄せてみせる。 「俺にもそういう時があったからさ。それで、そん時、人に助けてもらったんだ。だから、今度はこっちが人助けってね」  世の中持ちつ持たれつだよと、再び歯を見せて笑った。  とまどう遥の腕を掴み、ゆっくり立たせる。警戒する気持ちは残っていたが、一方で抵抗する気力が底をついていた。  男に引っ張られる形で近くの建物までついていった。 「ほら、ここだよ」  四角い建物を見上げる。  簡素だが、比較的新しく小奇麗な印象のマンションだった。  鍵のないエントランスを通り抜け、エレベーターで三階に上がる。廊下は狭く、同じようなドアが等間隔に並んでいた。  そのうちの一つを男が開ける。遥をリビングに通すと、にこりと笑って言った。 「友だちに電話してくるから、そのへんに座って待ってて」  男はスマホを掴みわざわざ玄関の外に出てゆく。  遥は周囲を見回した。部屋にはあまりものがなかった。テーブルセットとソファとテレビが、借り物のように置かれているが、それ以外の日用品はほとんど見当たらない。  生活をしている気配がなく、モデルルームかビジネスホテルのようだと思った。  すぐに男は戻ってきた。 「お待たせ。ごめんね」  どれにする? とピザの写真ばかり並んだ派手な色のメニューを見せる。よくわからず黙っていると、男が適当に選んで電話をかけた。  届いたピザを一切れ手に取り、一緒に渡された炭酸飲料で流しこむ。油が多く味の濃いピザは、一切れ食べるのにも骨が折れた。 「そんな少しでいいの? 遠慮しなくていいのに」 「ありがとう。そんなにお腹空いてないから……」  梓が死んでから、一週間近くほとんどものを食べていない。やっとの思いでのみ込んだピザは遥の胃の中で異物感の塊になった。 「疲れてるんだよ。そっちの部屋、今は誰も使ってないから、よかったら少し寝てきなよ」

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