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【14】SIDE三井遥(4)-1
水の流れる音がする。
さらさらと、小川のせせらぎのような音だ。
ゆっくり目を開けると、高いところに天井があり、四角く切り取られたフレームの向こうに空が覗いていた。フレームはただのフレームで、窓とは少し違う。ガラスのない、ただの四角い穴。
土と木の匂い。銀色の金属のパイプ。
それ以外は全て白い。
白い壁、白い天井、白いソファ、白いテーブル。再び目を閉じると、それらは瞼の裏に焼き付いて残った。細かいディテールの違いまでわかる。
白は、同じ白でも全て違っていた。
遥が寝ているのは土に置かれた白い寝台の上だ。ベッドというより寝台と呼んだほうが正しい。長方形の細長いただの台。椅子かもしれない。背もたれのない椅子。
そばに細い木が植えてある。枝も細い。葉を落とした……。
(ハナミズキ……?)
不思議な部屋だ。部屋の中に水が流れ、ハナミズキが空に枝を伸ばしている。
ああ……。そうか。
ここは天国なのだ。
あの建物の中に、遥は入ることができたのだ。ならば、きっと、どこかで母に会える。
(よかった……)
ごめんね、お母さん……。
僕が……。
次に意識が戻った時は夜だった。寒さと吐き気と頭痛に悩まされて、荒い呼吸の合間に自分の呻く声が聞こえる。
痛くて、苦しい。
自分はまだ生きているのだろうか。
パチパチと火が燃えている。熱い。苦しい。
「熱が出てきた」
誰かが言った。それでいいと、もう一人が答えた気がした。けれど、それは夢だったのかもしれない。
口に薄い味のする水を含まされると、また深い場所に引きずり込まれる。
闇。
何も、見えなくなる。
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