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【14】SIDE三井遥(4)-2
やはり、天国には行けない。
諦めて意識を手放す。すると、今度はふいに身体に結ばれた重しが取れた。
額に冷たいものを載せられて、瞼を上げる。
「あ。気が付いた」
会ったことのない誰かが遥を見下ろしていた。異国の人のような美しい顔を、長い金色の髪が彩っている。白い空間の中で白い服を着て、光り輝いているように見えた。
(神様……?)
言葉を発したつもりだったが、声が出なかった。
けれど、神様にはちゃんと聞こえていたようだ。
「うん。よく頑張ったね」
よく頑張ったね。その言葉に涙が溢れた。自分は天国に迎え入れられたのだと思った。
「ぼ……く、は……」
コホ、と咳き込むと、神様が背中を支えて身体を起こしてくれた。イオン飲料のボトルにそっくりな天界の飲み物が手渡される。
ごくりとひと口飲み、一度むせてからゆっくり喉に流し込んだ。身体が内側から目を覚ましてゆく。
「僕は……」
「うん?」
「僕は、死んだんですか……?」
神様が目を見開く。
「違う。きみは、助かったんだ」
「え……」
「生きてるよ」
生きている……。
(そんな……)
言いようのない落胆が遥を襲った。それが少しずつ絶望に変わってゆく。
まだ、生きなければならないのか。
まだ、逃げなければならないのか。
けれど、遥はもう疲れ切っていた。涙が滲む。
「とにかく、もう少し休んで。水分を取って……、何か食べられそうなら、食べてみる?」
神様の言葉を、深い絶望の淵で聞いた。
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