120 / 207
【14】SIDE三井遥(4)-3
(神様……)
違う。
ここが天国ではないのなら、この男も神様ではないのだ。神様ではない男は、今度は遥に何をさせようというのだろうか。
今度こそ、遥は逃げられないのだ。
涙が止まらなくなり、両手で顔を覆って泣いた。それでも、まだ生きなければならないのか。
苦しかった。もう、自由になりたいと思った。
どうしたのかと男が心配そうに覗き込む。遥は短く訴えた。
「……死にたかった」
男は息をのんで黙った。ひどく悲しそうな目で遥を見下ろす。ブルーグレーの、曇り空に似た瞳が憂いを帯びて揺れていた。
「少し、眠って……」
男の声を聞きながら、再び眠りに落ちた。
次に目を覚ますと、ほとんど白湯のような薄い粥を食べさせられた。茶碗に半分ほどでさじを置く。
男がため息を吐いた。
「どうして、死にたかったの?」
「母が……」
言葉にする前に涙が溢れ、何も言えなくなった。
違う。違う……。
僕が……。
「僕が、母を……。母を殺した。だから……」
神様に似た男が、静かに頷いた。「そう……」と。
そして言った。
「僕も、兄を殺したよ」
遥は男に視線を向けた。
「きみと同じだ。……でも、まだ僕は、生きてる」
生きることは苦しいね。
男が言う。死ねたら楽だろうに、と。
遥が泣き止むまで、男は黙ってそばにいた。
「そうだ。まだ、名前を聞いてなかったね。僕は、美作怜二 。きみの名は?」
「日本人……?」
頭に浮かんだ言葉がそのまま口を衝いて出る。
「え? ああ……。半分イギリス人だけどね。イギリスの名前は持ってない。髪は染めてるんだ。本当はもっと茶色い」
遥は黙って頷いた。
で、きみは? ブルーグレーの瞳が聞いた。
「宗森……」
ともだちにシェアしよう!