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【14】SIDE三井遥(4)-3

(神様……)  違う。  ここが天国ではないのなら、この男も神様ではないのだ。神様ではない男は、今度は遥に何をさせようというのだろうか。  今度こそ、遥は逃げられないのだ。  涙が止まらなくなり、両手で顔を覆って泣いた。それでも、まだ生きなければならないのか。  苦しかった。もう、自由になりたいと思った。  どうしたのかと男が心配そうに覗き込む。遥は短く訴えた。 「……死にたかった」  男は息をのんで黙った。ひどく悲しそうな目で遥を見下ろす。ブルーグレーの、曇り空に似た瞳が憂いを帯びて揺れていた。 「少し、眠って……」  男の声を聞きながら、再び眠りに落ちた。  次に目を覚ますと、ほとんど白湯のような薄い粥を食べさせられた。茶碗に半分ほどでさじを置く。  男がため息を吐いた。 「どうして、死にたかったの?」 「母が……」  言葉にする前に涙が溢れ、何も言えなくなった。  違う。違う……。  僕が……。 「僕が、母を……。母を殺した。だから……」  神様に似た男が、静かに頷いた。「そう……」と。  そして言った。 「僕も、兄を殺したよ」  遥は男に視線を向けた。 「きみと同じだ。……でも、まだ僕は、生きてる」  生きることは苦しいね。  男が言う。死ねたら楽だろうに、と。  遥が泣き止むまで、男は黙ってそばにいた。 「そうだ。まだ、名前を聞いてなかったね。僕は、美作怜二(みまさかれいじ)。きみの名は?」 「日本人……?」  頭に浮かんだ言葉がそのまま口を衝いて出る。 「え? ああ……。半分イギリス人だけどね。イギリスの名前は持ってない。髪は染めてるんだ。本当はもっと茶色い」  遥は黙って頷いた。  で、きみは? ブルーグレーの瞳が聞いた。 「宗森……」

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