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【14】SIDE三井遥(4)-4

 長く使った名前が先に零れ落ちる。  一度、息を吐いて、言い直した。 「三井……、遥」 「三井……、遥くん」  遥と同じ位置で名前を切って、美作は繰り返した。 「もうしばらく、ここで休んでて」  粥を載せた盆を手に立ち上がる。 「あの……」 「ん?」 「いえ……」  遥が寝ていたのは、大きな長椅子だった。広い空間の端にポツンと置かれている。シングルベッドほどのサイズがあり、背もたれはない。銀色の足が付いたただの長方形の椅子。クッションの付いたベンチと言ってもいい。  広い空間の中央にはガラスで囲まれた中庭があった。  中庭の上部は空まで吹き抜けになっている。中庭の床は剥き出しの土で、中央にハナミズキの木が植えてあった。今は葉を落としていて、細い枝だけが空に向かって伸びている。  ガラスの一部は扉になっていて、土の中庭に出ることができた。  部屋の内部、広い空間の床の部分には水の流れる溝があった。溝の幅は人の肩幅ほどで、深さはあまりない。階段の一段分ほどだ。四角い部屋の壁の一部に水の吐き出し口があり、流れ落ちた水を一度小さな池が受け止め、そこから溝に流れ出ていた。水は室内を横切って外につながる壁の穴に吸い込まれてゆく。  美作はそれを、ただ「水路」と呼んだ。  一方の壁には本物の暖炉が燃えていて、室内を温めている。  あちこちに椅子やテーブルやソファがオブジェのように置かれていて、段差のある室内で思い思いにくつろげるような配置になっていた。  それらは全て白一色だ。  壁も天井も床も、全てが白い。椅子の脚、ガラスを支える細いフレーム、部屋の隅にある二階のドアに続く螺旋階段だけが、磨かれた銀色の金属でできていた。  美作はこの建物を「教会」だと言った。  あるいは「家」だと。 「特定の宗教のためのものじゃなくて、自分のために祈る場所。祈らなくても構わないんだけどね」  意味が、よくわからなかった。  やがて遥はこの建物を「店舗」だと理解する。遥が椅子で寝ている間は誰も来なかったが、後になって大勢の人がやってきて、ここを「店」と呼んだからだ。  店の名前は『インフィニティ』。  入口はあの黒いドアだけだ。探しても見つけることは難しく、ドアノブも呼び鈴もないため、内側からしか開かない。

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