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【14】SIDE三井遥(4)-7
遥は美作を疑うことをやめた。
彼の厚意に甘えて店に留まり、淡々と厨房に立ち料理を作り、酒を作った。
半年が過ぎた頃、店の外に出て建物を眺めた。
外から見た建物は白くて四角い。それが、夜になると浮かび上がって見えるのは、壁のところどころに埋め込まれたガラスブロックから中の光が漏れて、透けるように輝くからだった。
とても細長い窓がいくつか並び、そこからも光は零れ出る。その光は電飾のように目立つことはないが、求める人には必ず見つけ出せる優しさに満ちていた。
光が、夜の中に「教会」を浮かび上がらせる。
計測機器を持たない時代の灯台。
希望の光。
「遥は、建物に興味があるの?」
よくわからないまま曖昧に頷いた。
宗森の家業の一つに建築会社があったが、遥が大学で学んだのは別の分野だった。機械知能。AIだ。しかし、それももはや意味はなく、自分が何に興味を持っているのか考える気力もなくなっていた。
やがて、美作は一人の男に遥を引き合わせた。
時々インフィニティを訪れる西園寺という男だ。東京や海外の都市で活躍し、専門誌などで取り上げられることも多い新進気鋭の建築家だが、どういう風邪の吹き回しか、少し前に地元に戻って父親の会社を手伝っているという。
遥の顔を見るなり、西園寺は「最初よりだいぶましになったな」と言った。
「怜二がおまえを拾った時、俺は一緒にいたんだよ」
「僕は警察に届けるか救急車を呼ぶって言ってるのに、こいつが止めたんだ。ただ拾うだけにしろとか言って。死んだらどうするんだって言ってるのに、だいじょうぶだからの一点張りでさ」
美作の見たところ、晴は危険な状態だった。一歩間違えば、自分は犯罪者になりかねなかったと、大袈裟なことを言う。
「市民の義務を故意に放棄したんだから」
「確かに半分死にかけてたな。ただ、見たところ怪我は足を捻っているくらいだし、低体温症以外は、栄養失調と過労が原因だろうなと思った。下手に動かして負担かけるより、あったかくして寝かしたほうが……」
「医者でもないくせに何言ってんの」
美作が西園寺の頭を叩いた。
「なんていうか、運試しみたいなことして、ごめんね」
「運試し……」
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