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【14】SIDE三井遥(4)-8

「神様が、おまえを生かすかどうか、俺たちが知りたかったのかもな」 「そして、神様はきみを生かしてくれた」  遥は頷いた。  もしそうなら、自分はまだ生きていていいのだろうか。 「あの時……」  この店の白い椅子の上で目を開けた。 「目が覚めて、初めて美作さんの顔を見た時、美作さんが神様に見えた」 「え……?」 「それは、いいな」  遥の言葉を西園寺が喜ぶ。 「天国に、来たんだと思った……」 「はは。なかなかいい。確かに、この天国に入れるのは美作が許した者だけだ。ここでは美作が神様だ」  西園寺が笑う。 「運命に選ばれた者にだけ、ここのドアは開かれるってわけだ」  秋が来る頃、美作に聞かれた。  「雅人のところで働いてみる? ここでずっとシェフやバーテンの真似をしててもいいけど、違うところで働いてみて、自分の力で生活してみるのもいいかもよ?」 「働いて、自分の力で……?」  それは、かつて遥が願っていたことだ。  働いて、自由になる。  今となっては、そうするしかないだろうという思いに変わってしまったけれど。  人は生きなければならない。そのために働くのだ。 「設計や工事のスタッフは、今は新卒以外は経験者しか採ってないんだって」  美作が何か説明していた。遥はそれを、ぼんやりと聞いた。 「営業でいいなら、働いてみるかって」  やってみるかと聞かれて、深く考えずに頷いた。  美作がそうしろと言うならそうする。どこへでも、行けるところに行くしかない。  いつまでも、ここにはいられないのだと思った。

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