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【15】SIDE三井遥(5)-2
「まあ、最初からうまくはできないよ」
別府のおおらかさに救われる。
美作に拾われてから約一年後の二月の初め、遥はウエストハウジングの社員になった。
一週間後には、いきなり社員旅行に連れていかれ、右も左もわからないまま見知らぬ人たちと二日間を過ごした。宴会場では終始無言で周囲の様子を観察し、大浴場に出向く勇気が出ないまま、部屋のユニットバスに浸かって早々に布団に入った。周囲の楽しそうな様子を眺めながら、いつの間にか孤独に慣れてしまった自分を改めて感じた。
インフィニティに身を寄せている間、美作は遥に、いくばくかの金を毎月給料として支払っていた。見習いシェフ兼バーテンダーとしての給料で、額は少なく、そこから生活費が天引きされる。特別扱いをしないことで、美作は遥に居場所を作ってくれたのだった。
貯めた金は多くはなかったが、ウエストハウジングの近くに古いアパートを借り、最初の給料が入るまでの生活を支えるくらいの額にはなっていた。
家財道具の大半はアパートの大家が無償で譲ってくれた。退去する旧入居者から処分を依頼されたもので、そのまま使ってくれればかえって助かると言われ、ありがたく使わせてもらうことにした。
そのようにして、遥は社会人としての一歩を踏み出した。
二十二歳になっていた。大学に残っていれば春には卒業するはずの年。
けれど、その資格はとうに失い、取り戻せる日も来ないだろうと思った。
慣れない仕事と、日々の家事や雑事。自分自身を生かすための作業に追われるうちに、あっという間に月日は流れていった。
何かを深く考えずに済む忙しさが遥を生かした。
やるべきことをやるだけで、一日一日が確実に過ぎてゆく。
一年経つ頃には、仕事を一通りこなせるようになっていた。顔に笑顔を貼り付け、顧客の希望を聞き出し、それに沿うように設計に図面を依頼する。
別府が言う通り、当たり前のことをきちんと頑張っていれば、全く数字が出ないということはなかった。ウエストハウジングという看板が契約を運んでくるのである。
三年目になると、生きてゆくだけならばなんとかなると思えるようになり、気持ちにも余裕ができ始めた。
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