129 / 207
【15】SIDE三井遥(5)-4
西園寺の影響もあり、祐希という青年に目が行くようになった。
祐希は同期入社のグループと一緒にいることが多かった。会社帰りに、よく食事や飲み会に出かけてゆく。その姿を眺め、仲のよい彼らの様子を少しばかり羨ましく思った。
何人かは会社の近くにある寮で暮らしていた。寮は遥のアパートからも近く、角のコンビニで彼らの姿を見かけることも多かった。
寮には遥も入ることができた。けれど、壁に囲まれた狭い部屋を見た時、気持ちが落ち着かなくなるのを感じて避けた。狭い空間に慣れていないせいもあっただろうし、美作に救われる直前に逃げてきた短期賃貸マンションの一室を思い出すせいもあったかもしれない。
祐希の友人たちのうち、背の高い青年が、恋人らしい女性と一緒にコンビニにいるのを見かけることがあった。彼は、なぜかいつも困ったような顔で女性に叱られていた。
「忙しい、忙しいって、いつならゆっくり会えるの?」
不機嫌な女性に「ごめん」と謝ってばかりいる彼が、気の毒に思えた。
やがて女性の姿を見かけることがなくなった。晴れ晴れとした顔で寮の仲や祐希と楽しそうに笑っている姿を見て、彼は彼女を失ってもそれほど傷ついていないようだと思った。そのことに、なぜか遥もほっとしていた。
青年の名前は蓮見崇彦 といった。
工事部に所属する見習いの現場監督だ。
同期の営業部社員、坂本と一緒に夜中に時々甘いものを買いに来る。遥自身は駐車場からの帰り道に通りかかるだけだが、深夜、店の前の駐車場で二人が話し込んでいるのをよく見かけた。
「営業、ほんとにキツい……。俺、もうダメかも」
この日も坂本が弱音を吐いていた。クルマの通りの少ない夜で、駐車場を横切る間に彼らの会話が自然と耳に届いた。
「大変そうだな」
「うん。先輩がね……。けど、監督も大変じゃん。蓮見、最近は毎日、帰ってくるの夜中だろ」
「うん。でも、俺の段取りが悪いからな。仕方ないんだよ。仕事を覚えれば、もっと早く帰れるようになると思う」
「もう少しテキトーにやってる監督もいるだろ? なんかキリがない仕事だって、誰かが言ってたよ」
うーん、と蓮見が苦笑する。
「なんでそんなに頑張るん?」
ともだちにシェアしよう!