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【15】SIDE三井遥(5)-5
「谷さんが厳しいしなぁ……」
「ああ」
あはは、と坂本が笑う。
梅雨の合間の静かに晴れた夜だった。星の下に二人の青年の声が静かに流れる。
「ああ、でもあれか。入社式の時に社長が言ってた言葉が、なんだか響いてるっていうのもある」
「社長の言葉?」
「うん」
蓮見が諳んじる。
――家は、普通の人が自分たちのために建てる建物です。自分たちの働いたお金で何十年という長いローンを組んで建てます。
家にとって大切なことは、安全で清潔で快適なことと、長く住めること。地震に耐える丈夫さを備え、暑さや寒さ、雨や風、嵐から住む人を守ることです。
帰ればほっと一息つくことができて、安心して眠ることができる場所でもあります。
家は住む人の暮らしや人生を守る箱なのです――
「そんなこと言ってたっけ」
「言ってただろ」
呆れたようにラムネの瓶で坂本の脚を小突いた。
「お客さん、一生かけてローンを払うんだよなぁって思ったら、なんかちゃんとしたもん造らないとなって思うだろ。毎日、大変な思いをして働いた金で、家を建ててくれるんだ」
「そうか……。そうだな」
「歴史に残るとか、地図に残るとか、そういう建物を建てるのもかっこいいけど、その家族のためだけにある建物っていうのもいいなと、あの言葉を聞いて思った」
「うん」
「それにさ、家って、あれだ。ほかの建物と違って、そこで何をしてても許される場所だろ?」
「どういうこと?」
「家では何してもいいんだよ。ハナクソだってほじくり放題」
「なるほど。屁もこき放題だな」
「そう。床でゴロゴロしようが、まっぱで歩き回ろうが、なんでも許される。家もただの建物だし、言ってみれば箱でしかないんだけど、そういう安心とか、家族の幸せとかを入れる箱なんだよ。俺が監理してる建物も、そういう箱になればいいなって思う。ちゃんと長く住めるしっかりした建物にしないとなって」
「幸せを入れる箱か。なんか、カッコイイな」
「カッコイイよ。だから、坂本も頑張れよ。おまえが売ってるのは幸福の箱なんだからな」
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