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【15】SIDE三井遥(5)-9

 蓮見は言ったらしい。 『傘もないのに、土砂降りの中に出ていく必要がないのと一緒だ。よほど特別な用事がないなら、ふつうに家の中にいろよ。そのほうが祐希を傷つけなくて済む』  頭で理想を並べ立てるのではなく、目の前の出来事を眺め、自分が身体と心で知り得たことを元に判断し行動する。西園寺や美作、そして遥にも欠けている能力かもしれない。そう言って笑っていた。 『健全で、単純で、まっすぐ』  蓮見を称した言葉を思い出し、ふっと心が軽くなった。  インフィニティならば知っている。そう遥は答えた。新井の言っていたような店ではないが、その存在は秘密だと伝えた。  美作が守っている店である。秘密は秘密として守らなければはならない。  宴会場からは人がほとんど掃けていた。別れがたい気持ちで「そろそろ行こうか」と声をかけた。  すると、蓮見が飲みに誘ってくれた。嬉しくなった遥は、パンフレットで読んだ知識をつい並べ立ててしまい、なぜそんなこと知ってるのだと笑われた。笑われても嬉しかった。  ついでにもうひと風呂、と言いかけた蓮見が、ふいに着いてすぐの入浴のことを聞いた。 「さっき、一回目の風呂、誰かと一緒になったか?」  祐希にしか会わなかったと言うと、怪訝な顔をする。貸切風呂のことを説明した。そんなわかりにくい案内があったのかという顔で蓮見は苦笑した。  そちらのラウンジに行こうと言い、せっかくだから貸切風呂にも入ろうと言う。 「え……」  心臓が跳ね、足が止まる。  意識するのはおかしい。男同士で同じ風呂に入るのは普通のことで、蓮見に他意はない。そう自分に言い聞かせても、頬が赤くなるのがわかった。  緊張し、ギクシャクとした態度のまま、貸切風呂に向かった。 「二つ目の引き戸が、うちの会社の男性用貸切風呂だから……」  引き戸を開けるとスリッパ二組があり、ほかの人間がいるとわかって、少しほっとした。  どんな感じなのか見たいと言って、蓮見が先に脱衣所の中を進んでいった。  湯殿に続くガラス戸を少し開けたところで、蓮見が動きを止めた。 「蓮見、どうかしたの?」  突然、蓮見の長い腕が遥の身体を引き寄せた。広い胸に抱かれ、心臓が止まりそうになる。

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