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【15】SIDE三井遥(5)-10

 ぱしゃんと水を打つ音がして、祐希の声が漏れてきた。  息をのむ。蓮見の腕の力が強くなる。  遥の心臓は壊れたように肋骨を叩き、慌てて蓮見の腕から逃れようともがいた。どうしよう。なぜか泣きたい気持ちになった時、突然、蓮見が遥の顔を仰向かせた。  驚いて見つめていると、ぶつかるようにして唇を塞がれる。  世界が動きを止めた。遥の中で、殻のような何かが割れて、再び世界が動き始める。  心臓が騒ぎ、初めての口づけに息をすることも忘れ、身体は宙に浮いたように感覚を失くした。  舌で舌をまさぐられ、膝から力が抜けた。  覆いかぶさるように遥を求めていた蓮見が、同時にバランスを失う。二人一緒に脱衣所の床に倒れた。  ガタンと何かが転がる。浴室からザバッと人が立ちあがる水音が聞こえた。 「行って」  強く背中を押され、頭の中を真っ白にしたまま、遥はその場を立ち去った。  後はよく覚えていない。  旅行の間中、ずっと遥はぼんやりと上の空で過ごした。唇に触れると、身体の奥から甘い痺れが生まれて全身を満たした。  旅行が終わり仕事に戻ると、なぜ蓮見はキスをしたのだろうと考えた。同性愛への偏見はないとはいえ、蓮見はごく一般的な異性愛者だ。  西園寺たちに当てられ、酔った勢いで衝動的に取った行動だ。そう思うしかなかった。あまり酒は飲んでいないと言っていたが、それでもきっと酔っていたのだと。  五つも年上の男にキスをしたことを、後悔しているかもしれない。それとも、すでに忘れてしまっただろうか。  そう考えると、胸が痛かった。  唇に指を当てると、初めて知った感触が残っていた。口の中を他人の舌で舐められる。ほかの人間が相手ならとても耐えられないような行為だと思う。  それが、どうして蓮見のものなら、こんなふうに、思い出しただけで胸が苦しくなるのだろう。  二十八にもなって、恋愛経験一つない自分を情けなく思う。この先、どんな顔で蓮見に会えばいいのかわからなかった。  それでも、容赦なく、仕事が二人が会う機会を作るのだった。

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