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【15】SIDE三井遥(5)-11

 安田邸の引渡し直前のことだった。安田夫人が妹に現場を見せたいと言ってきた。急で申し訳ないが、時間が取れるかと聞かれ、遥は覚悟を決めるしかなかった。  現場に行くと、職人の姿はすでになく、蓮見は一人で細かい片付け作業をしていた。案内について告げると、蓮見は視線も合わせずに「いいよ」と言った。  胸がちくりと痛んだ。  同時に、全部なかったことにしてやり過ごせばいいのだと自分に言い聞かせた。  安田夫人と真由、安田夫人の妹とその娘の四人を連れて現場に戻った。一通り案内を終えて四人を見送ると、再び蓮見と二人になった。  いつも通り挨拶をして立ち去ればいい。そう思った。 「蓮見、ありがと……」 「うん……」 「じゃあ、僕も行くね」  背を向けようとした瞬間、突然、腕を強く掴まれて心臓が跳ねる。 「三井さん……、この前のこと」  遥は息を詰めた。  ああ、謝られるのだ、と思った。ただの間違い。だから、謝る。そう思った。 「この前は、急にキスしてごめん」  ほら……。  泣きそうになるのを堪えて、小さく首を振る。怒っているかと聞かれ、もう一度首を振る。  すると、蓮見はゆっくりこう告げた。 「三井さん、俺、三井さんが好きです」 「え……」  何を言われたのかわからなかった。 「好きです……」 「蓮見、でも……」  信じられなかった。けれど、蓮見は真摯な口調で続けた。 「男同士だし、三井さんが無理なら仕方ない。でも、聞いてほしかった。あの時はまだ、自分でもよくわかってなかったけど、いいかげんな気持ちでキスしたわけじゃないから」  驚いて見上げていると、蓮見の耳が赤く染まってゆく。 「なんか……、ごめん」  照れたように謝られても、まだ信じられなかった。

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