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【16】SIDE三井遥(6)-6 ※R18
それでもいいと思っていた。
好きな遊びやよく行った場所、学生時代の部活の話、二十三年間の蓮見の人生に耳を傾け、一つ一つ心に刻んだ。
絵を描くのが好きで、工作も好きだったと言った。中学高校とサッカー部に所属していたけれど、練習は楽でチームは弱かった。バスケ部の非正規部員として試合に出ることのほうが多かったが、なぜか最後までサッカー部員のままだったと笑う。
ものを造るのが好きだったので建築の専門学校に進み、設計より現場が合っている気がして監督の仕事を希望した。
そんなふうに何もかもを屈託なく話してくれた。
「女の子にもモテたでしょ?」
遥が聞くと、蓮見は少し嫌な顔をした。
「なんでさ、今好きな人に、昔のそういう話をしなきゃなんないわけ?」
「え……?」
「今、俺が好きなのは、三井さん。昔のことはいいの」
「でも、気になる」
すると蓮見は「モテなかった」と嘘を吐いた。
「嘘」
「嘘じゃないよ。付き合ってくれって言われて付き合うんだけど、いつもフラれる。ちっとも自分のほうを見てくれないって、毎回言われた」
「蓮見が?」
遥は不思議に思った。
蓮見はいつも遥を見ている。料理の下ごしらえをしている時も、洗濯機の中を覗いている時も、歯磨きをしている時でさえ、ふと視線を感じて振り向くと黒い瞳がそこにある。
そして、目が合うと嬉しそうに笑う。
「こんなに誰かを好きになったのは、初めてだ。自分から告白したのも初めてだし、近くにいてももっと欲しいと思ったのも初めて」
蓮見はそう言って、長い腕を伸ばしてくる。遥を抱き寄せる。
「早く月曜になればいいのに。そしたら、たくさん三井さんの中に入れる」
日曜日の夜に、そんなことを言う勤め人はいないかと自分で笑い、それでも早く明日が来ればいいと繰り返した。
何度か蓮見に水を向けられて、遥の話もしようとした。けれど、どんなふうに話せばいいのか、遥にはわからなかった。
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