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【16】SIDE三井遥(6)-7 ※R18

 宗森の家にいた頃は幸福だったはずなのに、それらはすでに自分のものではないような気がしていた。  三井家での暮らしについて話すのは苦しかった。  そこから逃げて、インフィニティに辿り着くまでの、短いけれど一番辛かった思い出も、まだうまく言葉にできない。  壮介に縁を切られた理由も、梓を亡くした夜のことも。  話せば、重くて引かれるかもしれない。そんな気持ちもあったかもしれない。けれど、それだけが理由で話さなかったわけではなかった。  いつか、どんなふうにかわからないけれど、もしもずっと蓮見のそばにいられたら、全部伝えられる日が来るかもしれないと思った。  春に梅の花がほころぶように、秋にどこからか金木犀が香るように、自然に。  そんな日が来るのを、心のどこかで待っていた。  また梅雨が来て、雨が降る。  六月になって蓮見の年齢が一つ増えた。二十四歳という年が、人生の中でどんな年齢なのか遥にはよくわからない。遥がその年齢だった頃は、ただ生きるだけで精いっぱいだった。  三ヶ月が過ぎても蓮見は何も変わらなかった。  相変わらず遥を好きだと言い、自分の休みの日にはアパートに来て、遥の休日前には泊りに来る。何度も何度も遥を抱く。  遥は自分に言い聞かせる。  永遠は望まない。それが叶うことはない。いつか終わる日が来る。  それでもいいと言い聞かせる。  何度も言い聞かせる。永遠など望まない。終わる日が来るのだと。それでもいいと思っていたはずではないかと。  けれど、どんなに言い聞かせても、もう戻れないことを知っていた。  遥はもう、蓮見なしで生きられない。  仕事で契約数が増えると、営業部の基盤強化のために本社に呼ばれることが増えた。  別府とともに部長室に呼ばれ、どうすればより安定した営業活動が可能か意見を聞かれる。所長会議に呼ばれることも何度かあった。

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