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【17】SIDE蓮見(11)-1
四角い建物が夜の闇の中に浮かび上がって見えた。
夕方から振り始めた雨に、白い輪郭がぼんやり滲む。
細長い窓がいくつかあるだけの簡素な造り。なのに、その建物はどこか荘厳で美しい佇まいをしていた。
入り口はなく、低い塀に隠れた階段を下りるとドライエリアを兼ねた小さな広場があった。
壁面に嵌めこまれたガラスブロックから光が零れ落ち、雨に濡れた広場の床を湖のようにきらめかせている。
壁の中央に黒い板がはめ込まれていた。把手はなく、インターフォンなどもない。どうやらこれがドアらしいが、どうやって中に入るのか全くわからない。
黙って西園寺の横に立っていると、ふいに内側からドアが開いた。
「いらっしゃい」
髪の長い男が出迎えた。身長は蓮見や西園寺と変わらない。西洋の血が入っていると一目でわかる容貌だった。
長い髪は金色で、なんでもない白いシャツを無造作に身に着けている。
彼が神様なのだろうと思った。
「急にごめんね。遥がいなくなったって聞いて……」
神様は三井を「遥」と呼んだ。そのことに、軽い嫉妬を覚える。
黒いドアをくぐると、いきなり広い部屋に出た。部屋というより空間と呼んだほうがふさわしい。
ぽっかりと開けた壁のない一つの世界。
正面に銀の螺旋階段と火のない暖炉があり、左手に水の流れ落ちる四角い吐水口がある。吐水口の下には水を受けるための水盤、そこから流れ出て外まで続く水路が部屋を横切っていた。
中央にはガラスで囲まれた中庭があり、土の地面から枝の細い木が一本空に伸びている。明るい緑色の涼しげな葉に見覚えがあった。
水盤の横に銀のパイプで支えられたバーカウンター、奥に厨房がある。
オブジェのように散らばる椅子やソファが客席らしいが、この日は休みなのか、人の姿はなかった。
壁も床も椅子もテーブルもソファも全部白い。
安易に白で内装を整えることに、蓮見はなんとなく抵抗がある。だが、この店の白は変化があり豊かだと思った。
「すごいな。綺麗だ……」
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