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【17】SIDE蓮見(11)-2
西園寺の設計だろうか。
専門学校で実務を二年学んだ程度だが、この建物が並の建築家の作品ではないことが蓮見にもわかった。
「ここは、どういう建物なんだ?」
「届け出上は、店舗併用住宅」
「あんたの作品か?」
「まさか。俺にはこんなものは作れない」
ふだんは嫌味なくらい自信に溢れている男が、やけに謙虚な言葉を吐いた。
「美作優一 の遺作だ」
「美作優一……」
「おまえも建築専攻の出なら、名前くらいは知ってるだろう」
記憶を辿り、頷いた。
美作優一は、二十代で夭折した天才建築家だ。亡くなって十年くらい経つだろうか。
「優一は僕の兄なんだ」
振り向くと神様が立っていた。彼自身の名を美作怜二だと名乗った。
その顔を見ているうちに、記憶が鮮明になる。
美作優一の祖父は高名なイギリス人建築家だった。母親もイギリス人だ。父親は大手建材メーカーの創始者一家の出だった。
才能だけでなく、家柄や血筋、容姿の全てに恵まれた若手建築家として、西園寺と並んで注目を集め、将来を嘱望されていた。
だが、天才と言われた男は、これからという時に突然謎の死を遂げた。自殺だったという噂もある。
神様が口を開く。
「兄の死が自殺だったのか、事故だったのか、未だに僕たちにもわからないんだ……」
十年前の冬に、この店の外のドライエリアに倒れていたという。
「雪の日だった。遺書もなくて、体内にはアルコールの痕跡があった。だから、事故として処理されたけど……」
「試したのかもしれない……」
西園寺が言った。
「優一は、試したんじゃないかと、思っている」
「試した?」
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